PR

講義9:【民法総則】無権代理と表見代理|責任の所在と相続の処理を完全解説

前回は代理の基本について学びましたが、もし代理権がない人が勝手に契約してしまったらどうなるでしょうか?(これを無権代理といいます)

「勝手にしたことだから本人に効果は及ばない」というのが原則ですが、相手方からすればたまったものではありません。また、「代理権があるように見えた(本人のせいでもある)」という事情がある場合はどうでしょうか?(これを表見代理といいます)

行政書士試験では、この「無権代理」と「表見代理」、そして無権代理人が本人を相続するなどの「無権代理と相続」の論点が非常によく出題されます。

今回は、無権代理の処理ルールと、表見代理の成立要件、そして相続時の処理について、判例を整理して解説します。

1. 無権代理の基本(原則と例外)

無権代理とは、代理権を持たない者が代理人と称して法律行為を行うことです。

(1) 本人に対する効果

  • 原則:本人に効果は帰属しない(無効)。
  • 例外(追認):本人が「追認」すれば、契約の時にさかのぼって有効になります(遡及効)。

(2) 相手方の保護手段(4つの権利)

無権代理の相手方は、不安定な立場に置かれるため、以下の権利が認められています。

権利 要件(相手方の主観) 内容
① 催告権 善意・悪意を問わず 本人に対し「追認しますか?」と返事を求める権利。
確答がないと「追認拒絶」とみなされます。
② 取消権 善意であること 本人が追認する前に、契約を取り消す権利。
③ 責任追及権 原則:善意無過失
例外:悪意の無権代理人なら善意有過失でも可
無権代理人に対し「履行」または「損害賠償」を請求する権利。
④ 表見代理 善意無過失 本人に責任をとらせる(契約を有効にする)制度。
💡 悪意でもできる「催告権」

相手方が無権代理であることを知っていた(悪意)場合でも、「催告権」だけは行使できます。「代理権がないのは知っていたけど、本人がOKするかもしれないから聞いてみよう」ということは認められるからです。

2. 無権代理人の責任(117条)

無権代理人が代理権を証明できず、本人の追認も得られなかった場合、相手方は無権代理人に対して責任を追及できます。

  • 内容:履行または損害賠償(相手方が選択)。
  • 免責事由
    1. 相手方が悪意のとき。
    2. 相手方が善意有過失のとき(ただし、無権代理人が悪意なら責任を免れない)。
    3. 無権代理人が制限行為能力者であるとき。

3. 無権代理と相続(超頻出論点)

「無権代理人が本人を相続した場合」や、逆に「本人が無権代理人を相続した場合」、無権代理行為はどうなるのでしょうか?

(1) 無権代理人が本人を相続(単独相続)

子が親の土地を勝手に売却し、その後、親が死亡して子が単独相続したケース。

  • 結論:無権代理行為は当然に有効となる。
  • 理由:自ら無権代理をした者が、本人の地位を相続したからといって追認を拒絶するのは信義則に反するから(資格融合説的説明)。

(2) 無権代理人が本人を相続(共同相続)

上記ケースで、他にも相続人がいた場合。

  • 結論:当然には有効とならない。
  • 理由:他の共同相続人は追認を拒絶できるため。全員が追認しない限り有効にはなりません。

(3) 本人が無権代理人を相続

親(本人)が、勝手なことをした子(無権代理人)を相続したケース。

  • 結論当然には有効とならない(追認拒絶できる)。
  • 理由:本人が相続したのは「無権代理人の地位」であって、本人の立場(追認権)が失われるわけではないから。
    ※ただし、無権代理人の責任(損害賠償義務など)は相続します。
💡 覚え方のコツ

「悪いやつ(無権代理人)が相続したら有効、被害者(本人)が相続しても拒絶できる」とイメージしましょう。

4. 表見代理(ひょうけんだいり)

「代理権はないが、あるように見える」外観があり、その外観を作った本人に責任がある場合、相手方を保護するために契約を有効とする制度です。

(1) 3つの類型

  1. 代理権授与表示による表見代理(109条):
    本人が「彼に代理権を与えたよ」と嘘の表示をした場合。
  2. 権限外の行為の表見代理(110条):
    基本代理権を持つ代理人が、権限の範囲を超えて行為をした場合。
  3. 代理権消滅後の表見代理(112条):
    かつて代理権を持っていた者が、解任後に行為をした場合。

(2) 共通要件:相手方の善意無過失

いずれの類型も、相手方が「善意無過失(正当な理由)」であることが要件です。

(3) 応用:重畳適用(合わせ技)

「代理権が消滅した後に、さらに権限外の行為をした」ような場合でも、112条と110条を重ねて適用し、表見代理の成立を認めることができます。


5. 実戦問題にチャレンジ

問1:無権代理人の責任
無権代理人の責任に関する次の記述のうち、民法の規定に照らして妥当なものはどれか。

1. 無権代理人の責任は、過失責任の原則に基づいているため、無権代理人が自己に代理権がないことについて善意無過失であれば、相手方に対して責任を負わない。
2. 相手方が無権代理人の代理権欠缺について善意であっても過失がある場合、無権代理人は常に責任を免れる。
3. 無権代理人が制限行為能力者である場合、相手方が善意無過失であっても、無権代理人は相手方に対して履行または損害賠償の責任を負わない。
4. 無権代理人の責任を追及する場合、相手方は履行の請求と損害賠償の請求のいずれかを選択することができるが、この選択権は無権代理人にある。
5. 無権代理行為について本人が追認を拒絶した場合であっても、相手方は表見代理の成立を主張立証すれば、無権代理人に対する責任追及権を失うことはない。
正解・解説を見る

正解 3

解説:

1. 誤り。無権代理人の責任は「無過失責任」です。

2. 誤り。無権代理人が「悪意(代理権がないことを知っていた)」であれば、相手方に過失があっても責任を負います(117条2項2号ただし書)。

3. 正しい。制限行為能力者を保護するため、無権代理人が制限行為能力者の場合は責任を負いません(117条2項3号)。

4. 誤り。選択権は「相手方」にあります。

5. 誤り。表見代理が成立する場合(本人が責任を負う場合)、原則として無権代理人の責任は問えません(相手方が選択できるとする説もありますが、通説的理解では表見代理成立により契約が有効となるため、無権代理人の責任は劣後します)。

問2:無権代理と相続
無権代理と相続に関する次の記述のうち、判例の趣旨に照らして妥当なものはどれか。

1. 無権代理人が本人を単独で相続した場合、無権代理行為は当然に有効となり、本人の地位に基づいて追認を拒絶することはできない。
2. 本人が無権代理人を相続した場合、本人は無権代理人の地位を承継するため、無権代理行為について追認を拒絶することはできなくなる。
3. 無権代理人が本人を共同相続した場合、共同相続人の一人が追認すれば、無権代理人の相続分に相当する範囲で無権代理行為は有効となる。
4. 本人が生前に追認を拒絶した後に死亡し、無権代理人が本人を単独相続した場合、無権代理人は信義則上、追認拒絶の効果を主張できず、行為は有効となる。
5. 無権代理人が本人を単独相続した場合であっても、本人が生前に追認拒絶の意思を表示していなかった場合に限り、追認拒絶権を行使することができる。
正解・解説を見る

正解 1

解説:

1. 正しい。資格融合説(信義則説)により、当然に有効となります。

2. 誤り。本人が相続しても、本人の資格で追認拒絶が可能です(ただし無権代理人の債務は相続します)。

3. 誤り。共同相続の場合、全員が追認しない限り有効になりません(当然有効とはなりません)。

4. 誤り。生前に追認拒絶があれば「無効」が確定しているため、その後相続しても有効にはなりません。

5. 誤り。単独相続した場合は、信義則上、追認を拒絶できません。

問3:表見代理
表見代理に関する記述として、民法の規定および判例に照らして正しいものはどれか。

1. 代理権授与表示による表見代理(109条)は、本人が相手方に対して他人に代理権を与えた旨を表示した場合に成立するが、この表示は特定の相手方に対してする必要があり、不特定多数への広告などは含まれない。
2. 権限外の行為の表見代理(110条)が成立するためには、代理人が何らかの基本代理権を有していることが必要であるが、事実行為の代行権限(使者など)や公法上の行為の代理権(登記申請など)は基本代理権となり得ない。
3. 代理権消滅後の表見代理(112条)は、かつて代理権を有していた者が、代理権消滅後に代理行為を行った場合に適用されるが、相手方が代理権消滅の事実を知らなかったことについて過失がある場合は成立しない。
4. 表見代理が成立する場合、相手方は表見代理の主張をせずに、直ちに無権代理人への責任追及を行うことができる。
5. 夫婦の一方が日常家事債務の連帯責任の規定(761条)を基本代理権として、他方の不動産を売却した場合、相手方に正当な理由があっても110条の表見代理は成立しない。
正解・解説を見る

正解 3

解説:

1. 誤り。不特定多数への表示(広告や名義貸し等)も代理権授与表示に含まれます。

2. 誤り。登記申請権などの公法上の権限も、110条の基本代理権になり得ます(最判昭46.6.24)。

3. 正しい。表見代理の成立要件は「善意無過失」です。

4. 誤り。判例上、表見代理が成立する場合は、まず本人への請求(表見代理の主張)を行うべきと解されています。

5. 誤り。日常家事代理権を基本代理権とする110条の趣旨の適用(類推適用)は、相手方に「その行為が日常家事の範囲内であると信じるにつき正当な理由」がある場合に認められます(最判昭44.12.18)。

6. まとめ

今回は、無権代理と表見代理について解説しました。

  • 無権代理の相手方:悪意でも催告はできる。取消しは善意のみ。責任追及は善意無過失(原則)。
  • 無権代理と相続:無権代理人が単独相続=有効。本人が相続=拒絶可。共同相続=全員の追認が必要。
  • 表見代理:相手方の「善意無過失」が必須要件。

特に「無権代理と相続」のパターンは、図を書いて「誰が誰を相続したか」を整理しないと間違えやすい箇所です。判例の結論をしっかり暗記しておきましょう。

よくある質問(FAQ)

Q. 表見代理と無権代理人の責任追及、どっちが優先しますか?
A. 一般的には表見代理の主張が優先されると考えられています。表見代理が成立すれば契約は「有効(本人に効果帰属)」となるため、無権代理人の責任(無効を前提とした履行・賠償責任)は発生しないからです。
Q. 110条の「基本代理権」とは何ですか?
A. 表見代理のベースとなる「本物の代理権」のことです。全く代理権がない人には110条は適用されません。登記申請の代理権や、日常家事代理権なども基本代理権になり得ます。
Q. 無権代理人が本人を共同相続した場合、自分の相続分だけ有効になりますか?
A. なりません。追認権は不可分(分けられない)と考えられており、共同相続人全員が追認しない限り、無権代理行為は有効にはなりません。

↓民法の全体像を確認する↓

民法Webテキスト一覧ページへ戻る
タイトルとURLをコピーしました