抵当権は、単に「不動産を担保に取る」だけでなく、その抵当権自体を売買したり、担保に入れたりすることができます。これを「抵当権の処分」といいます。
また、抵当権の設定された不動産を買い受けた人が、抵当権を消滅させる制度(抵当権消滅請求)や、抵当権自体が時効で消えるケースも試験では頻出です。
特に「抵当権の譲渡・放棄」や「順位の譲渡・放棄」は、配当額の計算問題として出題されることが多く、苦手とする受験生が多い分野です。今回は、これらの仕組みを図解的に整理し、計算のコツを解説します。
1. 抵当権の処分(376条)
抵当権者が、自分の持っている抵当権を利用して、他の債権者のために利益を図る行為です。以下の4種類があります。
- 転抵当:抵当権自体を担保に入れてお金を借りる。
- 抵当権の譲渡・放棄:無担保債権者のために行う。
- 抵当権の順位の譲渡・放棄:後順位抵当権者のために行う。
(1) 対抗要件(重要)
抵当権の処分は、当事者の合意で効力が生じますが、第三者に対抗するには以下の要件が必要です。
- 第三者対抗要件:主たる債務者への通知または承諾(債権譲渡と同じ)。
- 優先弁済権の行使要件:抵当権の処分の付記登記。
(2) 計算問題の解き方(譲渡と放棄の違い)
「譲渡」と「放棄」では、計算方法が異なります。
| 種類 | 計算のルール | イメージ |
|---|---|---|
| 譲渡 | 譲渡人の取り分から、譲受人の債権額を全額優先的に支払う。残りを譲渡人が取る。 | 「お先にどうぞ」 (私の取り分をあげます) |
| 放棄 | 譲渡人と譲受人の取り分を合計し、それを両者の債権額の比率で按分する。 | 「一緒に分けよう」 (平等になりましょう) |
具体例:1番抵当権者A(2000万)が、無担保債権者B(2000万)に処分した場合
※競売代金からAへの配当が2000万円だったとする。
- 譲渡の場合:
- B:2000万円(全額優先)
- A:0万円(残り)
- 放棄の場合:
- 合計2000万円を、債権額(2000万:2000万=1:1)で山分け。
- A:1000万円
- B:1000万円
「順位の譲渡・放棄」は、後順位抵当権者に対して行います。この場合、「自分と相手の配当額の合計」を原資として、譲渡なら優先弁済、放棄なら按分を行います。関係ない他の順位の抵当権者(2番抵当権者など)の配当額には影響しません。
2. 抵当権の順位の変更(374条)
複数の抵当権者が合意して、順位を入れ替えることです。
- 要件:
- 各抵当権者の合意
- 利害関係人の承諾(転抵当権者など)
- 順位変更の登記(効力発生要件)
※設定者(債務者)の承諾は不要です。
3. 抵当権の消滅
抵当権は、被担保債権の弁済や時効、目的物の滅失などで消滅しますが、それ以外にも特有の消滅原因があります。
(1) 抵当権消滅請求(379条〜)
抵当不動産を買った第三者(第三取得者)が、抵当権者に「お金を払うから抵当権を消して」と請求する制度です。
- 主導権:第三取得者。
- 手続き:代価を提示して請求 → 抵当権者が2ヶ月以内に競売を申し立てなければ承諾とみなされる。
- できない人:主たる債務者、保証人(自分で払えということ)。
(2) 時効による消滅(396条・397条)
抵当権自体が時効で消えるかどうかの問題です。
| 相手 | 時効消滅するか? | 理由 |
|---|---|---|
| 債務者・設定者 | 債権と同時でなければ消滅しない | 自分の借金を棚に上げて、抵当権だけ消滅時効だと言うのは虫が良すぎるから(付従性)。 |
| 第三取得者・後順位抵当権者 | 20年で消滅する(独自に) | 彼らは債務者ではないため、抵当権という物権そのものの消滅時効(20年)を援用できる。 |
抵当不動産を、債務者以外の第三者が占有し、所有権を時効取得した場合、その反射的効果として抵当権は消滅します(抵当権付きの所有権を取得するわけではありません)。
4. 実戦問題にチャレンジ
・1番抵当権者B(債権額2000万円)
・2番抵当権者C(債権額2000万円)
・一般債権者D(債権額1000万円)
BがDに対して「抵当権の譲渡」をした場合、B・C・Dの配当額として正しいものはどれか。
1. B:0万円、C:1000万円、D:2000万円
2. B:1000万円、C:1000万円、D:1000万円
3. B:2000万円、C:1000万円、D:0万円
4. B:1000万円、C:1000万円、D:1000万円
5. B:2000万円、C:0万円、D:1000万円
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正解 2
解説:
Step1 本来の配当額
B:2000万円(1番)
C:1000万円(残り)
D:0万円(一般債権者)
Step2 処分の計算(BからDへ譲渡)
Bの取り分(2000万)の枠内で、D(1000万)に優先的に渡します。
D:1000万円(全額)
B:2000万 – 1000万 = 1000万円
C:1000万円(影響なし)
よって、B:1000万、C:1000万、D:1000万となります。
1. 抵当権設定者である物上保証人は、被担保債権が時効消滅していなくても、抵当権設定登記から20年が経過すれば、抵当権の消滅時効を援用することができる。
2. 抵当不動産の第三取得者は、抵当権消滅請求をすることができるが、この請求に対して抵当権者が承諾した場合でも、被担保債権の全額を弁済しなければ抵当権は消滅しない。
3. 抵当不動産を時効取得した者は、抵当権の存在を容認していた等の特段の事情がない限り、抵当権の消滅を主張して、抵当権の負担のない所有権を取得する。
4. 主たる債務者が抵当不動産を相続した場合、混同により抵当権は消滅するが、後順位抵当権者がいる場合は消滅しない。
5. 抵当権の順位放棄を受けた後順位抵当権者がいる場合、先順位抵当権者は、その被担保債権が弁済されても、後順位者の同意がなければ抵当権の抹消登記を申請できない。
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正解 3
解説:
1. 誤り。設定者(物上保証人含む)は、債権と切り離して抵当権のみの時効消滅を主張できません(396条)。
2. 誤り。抵当権消滅請求で支払うのは「提示した代価」であり、債権全額である必要はありません。
3. 正しい。第三者による時効取得は原始取得であり、抵当権などの負担は消滅します(397条)。
4. 誤り。所有権と抵当権が同一人に帰属した場合は混同で消滅しますが、「債務者」が相続しても、債務者と抵当権者が同一になったわけではないので、混同の問題ではありません。
5. 誤り。被担保債権が消滅すれば、付従性により抵当権は消滅します。後順位者の同意は不要です。
1. 抵当権の順位の変更は、各抵当権者の合意のみで効力を生じ、登記は対抗要件にすぎない。
2. 順位変更をするには、抵当権設定者(不動産所有者)の承諾を得る必要がある。
3. 順位変更により不利益を受ける利害関係人(転抵当権者など)がいる場合、その者の承諾がなければ順位変更はできない。
4. 1番抵当権と3番抵当権の順位を入れ替える場合、間の2番抵当権者の承諾が必要である。
5. 根抵当権については、元本確定前であっても順位の変更をすることはできない。
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正解 3
解説:
1. 誤り。順位変更の登記は「効力発生要件」です(374条2項)。
2. 誤り。設定者の承諾は不要です。
3. 正しい。利害関係人の承諾は必須要件です。
4. 誤り。2番抵当権者の順位は変わらないため、利害関係人には当たらず、承諾は不要です。
5. 誤り。根抵当権も順位変更可能です。
5. まとめ
今回は、抵当権の処分と消滅について解説しました。
- 抵当権の譲渡:「お先にどうぞ(全額優先)」。
- 抵当権の放棄:「一緒に分けよう(按分)」。
- 消滅:第三取得者は消滅請求OK、債務者はNG。時効取得で抵当権は消える。
配当計算の問題は、落ち着いて図を描き、誰が誰に対して何をしたか(譲渡か放棄か)を確認すれば解けます。「合計額を出して分ける」という放棄の計算手順をマスターしておきましょう。
よくある質問(FAQ)
- Q. 抵当権の譲渡と順位譲渡の違いは何ですか?
- A. 相手が違います。「抵当権の譲渡」は無担保債権者(一般の人)に対して行い、「順位譲渡」は後順位抵当権者(列の後ろの人)に対して行います。計算のロジックは同じです。
- Q. 順位変更の登記が「効力発生要件」なのはなぜですか?
- A. 順位が変わると配当額が大きく変わり、取引の安全に重大な影響を与えるため、登記簿上で明確に公示されない限り効力を認めない(当事者間でも無効)という厳しいルールにしています。
- Q. 抵当権消滅請求をすると、必ず抵当権は消えますか?
- A. いいえ。抵当権者が「その金額では安すぎる」と判断して、2ヶ月以内に競売を申し立てた場合、消滅請求は効力を失い、通常の競売手続きに進みます。
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