PR

講義28:【民法債権】債権者代位権の要件と効果|転用事例(登記請求権など)も徹底解説

「借金を返さない債務者が、他人に対してはお金を持っているのに取り立てようとしない」
こんな時、債権者は指をくわえて見ているしかないのでしょうか?

いいえ、民法には債権者が債務者に代わって権利を行使できる「債権者代位権」という強力な制度があります。

この制度は、単なる金銭回収の手段にとどまらず、登記を移転させたり、不法占拠者を追い出したりするためにも使われます(これを「転用」といいます)。

今回は、債権者代位権の要件・効果から、試験で頻出の「転用事例」まで、図解イメージを用いながら解説します。

1. 債権者代位権(423条)とは

債権者が、自己の債権(被保全債権)を保全するため、債務者に属する権利(被代位権利)を自分の名で代わりに行使する権利です。

(例)AはBに100万円貸している。BはCに100万円の売掛金があるが、Bが無資力で取り立てようとしない。AはBに代わってCに請求できる。

行使の要件(原則)

  • 被保全債権(Aの権利)
    • 弁済期が到来していること(保存行為は未到来でも可)。
    • 強制執行により実現できること。
  • 債務者(B)の状況
    • 無資力であること(金銭債権保全の場合)。
    • 自ら権利行使をしていないこと。
  • 被代位権利(Bの権利)
    • 一身専属権でないこと。
    • 差押え禁止債権でないこと。
💡 一身専属権とは

「その人しか行使できない権利」のことです。例えば、離婚による財産分与請求権や慰謝料請求権などは、具体的な金額が確定するまでは代位できません。

2. 行使の方法と範囲

(1) 誰の名前でやる?

債権者は「自己の名」で行使します(代理人としてではありません)。裁判上でも裁判外でも行使可能です。

(2) 行使の範囲(423条の2)

債務者の権利が可分(分けられる)な場合(金銭など)、債権者は「自己の債権額の範囲内」でのみ代位行使できます。
(例)Aの債権100万、Bの債権500万なら、Aは100万円分しか代位できません。

(3) 直接引渡し請求(423条の3)

金銭や動産の引渡しを求める場合、債権者は第三債務者(C)に対し、「直接自分(A)に引き渡せ」と請求できます。
(受け取った物と自分の債権を相殺することで、事実上の優先弁済を受けられます)。

3. 相手方・債務者との関係

  • 相手方の抗弁権(423条の4):第三債務者(C)は、債務者(B)に対して持っている抗弁(同時履行や消滅時効など)を、債権者(A)に対しても主張できます。
  • 債務者の処分権限(423条の5):債権者が代位行使を始めた後でも、債務者自身が権利を行使したり処分したりすることは妨げられません(ここが改正で明確化されました)。
  • 訴訟告知(423条の6):裁判で代位行使する場合、債務者に「訴訟告知」をしなければなりません。

4. 債権者代位権の「転用」(重要!)

本来は「債務者の財産確保(金銭回収)」のための制度ですが、これを「特定の権利を実現するため」に利用することを「転用」といいます。
転用の場合、「無資力要件」は不要です。

主な転用事例(判例)

事例 内容 可否
登記請求権の代位 不動産がA→B→Cと転売されたが、登記がAにある場合、CはBのAに対する移転登記請求権を代位行使できる。
賃借権に基づく妨害排除 借地上の不法占拠者に対し、賃借人が賃貸人(地主)の所有権に基づく妨害排除請求権を代位行使する。
登記抹消請求権の代位 所有権移転登記が原因無効な場合、真の所有者から買った買主が、売主の抹消登記請求権を代位行使する。

5. 実戦問題にチャレンジ

問1:債権者代位権の要件
債権者代位権の行使要件に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らして正しいものはどれか。

1. 債権者が代位権を行使するためには、債務者が無資力であることが常に必要であり、転用事例においても例外ではない。
2. 債務者の権利が一身専属権である場合、債権者はこれを代位行使できないが、慰謝料請求権については、金額が具体的に確定していなくても代位行使できる。
3. 被保全債権の弁済期が到来していない場合、債権者は、裁判所の許可を得なければ代位権を行使することができないが、保存行為については許可なく行使できる。
4. 債務者が既に自ら権利を行使している場合であっても、その行使の方法が不適切であれば、債権者は重ねて代位行使することができる。
5. 被保全債権が強制執行により実現できない性質の債権(自然債務など)であっても、債権者代位権を行使することができる。
正解・解説を見る

正解 3

解説:

1. 誤り。転用事例(特定債権の保全)では無資力要件は不要です。

2. 誤り。慰謝料請求権などの一身専属権は、具体的な金額などで合意・確定した後でなければ代位できません。

3. 正しい。弁済期前の代位行使には原則として裁判所の許可が必要ですが、保存行為(時効の中断など)は許可不要です(423条2項)。

4. 誤り。債務者が自ら行使している場合は、結果の良し悪しに関わらず、代位行使はできません。

5. 誤り。強制執行できない債権を保全するために代位権を使うことはできません(423条3項)。

問2:行使の方法と範囲
債権者代位権の行使に関する次の記述のうち、民法の規定に照らして誤っているものはどれか。

1. 債権者は、被代位権利を行使する場合、債務者の代理人としてではなく、自己の名において行使する。
2. 債権者が被代位権利を行使した場合、債務者は自らその権利を行使したり処分したりすることができなくなる。
3. 債権者は、被代位権利が金銭の支払いを目的とするものである場合、相手方に対して直接自己への支払いを求めることができる。
4. 債権者は、被代位権利の行使に係る訴えを提起したときは、遅滞なく債務者に対して訴訟告知をしなければならない。
5. 被代位権利が可分である場合、債権者は自己の債権額の限度においてのみ、代位行使することができる。
正解・解説を見る

正解 2

解説:

1. 正しい。自己の名で行使します。

2. 誤り。改正民法により、債権者が代位行使した後でも、債務者は自ら権利行使や処分ができることが明記されました(423条の5)。(以前の判例法理が変更された点です)。

3. 正しい。直接自己への引渡しを請求できます(423条の3)。

4. 正しい。訴訟告知が必要です(423条の6)。

5. 正しい。過剰な介入を防ぐため、可分債権は自己の債権額の範囲に限られます。

問3:債権者代位権の転用
債権者代位権の転用に関する次の記述のうち、判例の趣旨に照らして正しいものはどれか。

1. 土地の賃借人は、賃借権を保全するために、賃貸人に代位して不法占拠者に対する妨害排除請求権を行使することができるが、この場合、賃貸人の無資力が必要である。
2. 不動産の買主は、売主に対する所有権移転登記請求権を保全するために、売主が前主に対して有する登記請求権を代位行使することができる。
3. 債権者は、自己の金銭債権を保全するために、債務者が有する離婚請求権を代位行使して、財産分与を請求することができる。
4. 抵当権者は、抵当不動産の不法占有者に対して、抵当権に基づく妨害排除請求権を行使できるが、所有者の有する妨害排除請求権を代位行使することはできない。
5. 賃借人は、賃貸人が修繕義務を履行しない場合、賃貸人に代位して工事業者に修繕工事を注文する契約を締結することができる。
正解・解説を見る

正解 2

解説:

1. 誤り。転用事例では「無資力」は不要です。

2. 正しい。登記請求権の代位行使は転用の典型例です。

3. 誤り。離婚請求権などの身分行為は、行使上の一身専属権であり、代位できません。

4. 誤り。抵当権に基づく請求もできますが、所有者の権利を代位行使することも認められています(最判平11.11.24)。

5. 誤り。代位行使できるのは「債務者の権利」です。新たに契約を結ぶ権限(契約締結の自由)まで代位できるわけではありません。

6. まとめ

今回は、債権者代位権について解説しました。

  • 要件:原則は無資力が必要。転用(登記など)なら不要。
  • 効果:直接自分への引渡しOK。債務者の権限は奪われない。
  • 一身専属権:離婚や慰謝料請求などは、具体的になるまで代位不可。

特に「債権者が行使した後でも、債務者は自分で権利行使できる(処分権限を失わない)」という点は、改正民法での重要変更点です。古い知識で間違えないように注意しましょう。

よくある質問(FAQ)

Q. 債権者代位権と詐害行為取消権の違いは何ですか?
A. 代位権は「債務者がやるべきことをやらない時」に代わりにやる制度です。詐害行為取消権は「債務者がやってしまった悪いこと(財産隠しなど)」を取り消す制度です。
Q. 直接自分に引き渡せと言えるのはなぜですか?
A. いったん債務者に返させても、またそこから回収する手間がかかる上、債務者が受領を拒否する恐れもあるからです。直接受け取り、相殺することで手続きを簡略化しています。
Q. 「行使上の一身専属権」とは何ですか?
A. 権利自体は移転可能でも、「それを行使するかどうかは本人の意思に委ねるべき権利」のことです。慰謝料請求権などが典型で、本人が「請求する!」と決めるまでは、他人が勝手に代位できません。

↓民法の全体像を確認する↓

民法【解説・問題】一覧ページへ戻る
タイトルとURLをコピーしました