行政法を勉強していると、「国が~」という表現と「国土交通大臣が~」という表現が出てきて、「結局、主語は誰なの?」と混乱することはありませんか?
また、実務やニュースで「専決(せんけつ)」や「決裁(けっさい)」という言葉を聞くけれど、法律上の「委任」や「代理」と何が違うのか、明確に区別できているでしょうか。
今回の講義では、行政を行う「主体(プレイヤー)」の分類と、組織内部での「役割分担」、そして上司の仕事を部下が代わりに行う「権限の代行」について解説します。特に「権限の代理・委任・専決」の3つの違いは、行政書士試験の記述式や多肢選択式で問われる超重要ポイントです。曖昧なままにせず、ここで完全にマスターしましょう。
- 行政主体(法人)と行政機関(手足)の関係
- 「諮問機関」と「参与機関」の決定的な違い
- 記述式で狙われる「権限の委任」と「代理」の要件・効果の違い
- 法律の根拠が不要な「専決・代決」の仕組み
1. 行政主体とは?(行政を行う法人たち)
まず、「行政主体」とは何でしょうか。
これは、行政を行う権利と義務を持つ「法人そのもの」を指します。法律上の「人」として扱われるため、土地を所有したり、契約の当事者になったりすることができます。
行政主体の主な分類
行政主体は、国や地方公共団体だけではありません。以下のように分類されます。
| 分類 | 概要 | 具体例 |
|---|---|---|
| 国 | 本来的な行政主体。 | 日本国 |
| 地方公共団体 | 地域における行政主体。 |
|
| 独立行政法人 | 国民生活に必要だが、国が直接やる必要はない事業を行う法人。 | 国立印刷局、造幣局、国民生活センターなど |
| 特殊法人 | 特別の法律で作られ、総務省の審査を経て設立される公共性の高い法人。 | 日本放送協会(NHK)、日本年金機構など |
| 認可法人 | 民間が発起人となり、主務大臣の認可を受けて設立される法人。 | 日本銀行、日本赤十字社 |
| 公共組合 | 特定の構成員によって組織され、加入強制や公権力行使が認められる社団法人。 | 健康保険組合、土地改良区、商工会議所 |
独立行政法人のうち、国の事務と密接に関連する業務を行う「行政執行法人」(例:造幣局、国立印刷局)の役職員は、国家公務員の身分を持ちます。
それ以外の独立行政法人(中期目標管理法人など)の役職員は、原則として非公務員です。
2. 作用法的行政機関概念(役割分担の仕組み)
行政主体(法人)は、それ自体では動けません。「日本国」という人間は存在しないからです。そこで、行政主体の手足となって実際に活動する「行政機関」が必要になります。
行政法学では、それぞれの機関が持つ「権限(パワー)」に着目して、以下のように分類します。
(1) 行政庁(決定権者)
行政主体のために意思を決定し、それを外部に表示する権限を持つ機関です。
- 独任制(1人で決める):各省大臣、都道府県知事、市町村長
- 合議制(会議で決める):公正取引委員会、国家公安委員会、教育委員会
※試験対策上、「行政庁」とはトップ(ハンコを押す人)のことだとイメージしてください。
(2) 補助機関(サポート役)
行政庁の職務を補佐する機関です。
事務次官、副知事、局長、課長、そして一般の職員などがこれに当たります。彼らは決定権者の手足として働きます。
(3) 諮問機関と参与機関(アドバイザー)
専門的な知識を行政庁に提供する機関ですが、両者には決定的な違いがあります。
| 種類 | 役割 | 法的拘束力 | 具体例 |
|---|---|---|---|
| 諮問機関 | 行政庁からの相談(諮問)を受けて、意見(答申)を述べる。 | なし (行政庁は意見を無視しても違法ではない) |
中央教育審議会、法制審議会 |
| 参与機関 | 行政庁の意思決定に関与し、議決を行う。 | あり (行政庁はその議決に従わなければならない) |
電波監理審議会、検察官適格審査会 |
「参与」の「与」は、「関与」の与です。深く関与して拘束する、と覚えましょう。
一方、諮問はあくまで「アドバイス」です。
(4) 執行機関(実働部隊)
国民の身体や財産に対して実力を行使する機関です。警察官、消防職員、徴税職員などが該当します。
※注意:地方自治法で学ぶ「執行機関」(長や委員会など)とは言葉の意味が異なるので、混同しないようにしましょう。
3. 権限の代行(誰かに仕事を任せる方法)
ここが今回の最重要テーマです。
本来、法律で「行政庁A(例:知事)」がやると決められている仕事を、他の機関「B(例:副知事や部長)」に行わせる仕組みには、以下の3つのパターンがあります。
(1) 権限の代理(ピンチヒッター)
行政庁Aが権限を持ったまま、Bに代理で行わせる方法です。民法の代理と同じ構造です。
- 効果の帰属:Bが行った行為の効果は、直接A(行政主体)に帰属します。
- 表示(顕名):「A代理人B」と表示します。
- 種類:
- 授権代理(任意代理):AがBに「任せた」と言って代理させること。
→ 一部の事務しか代理させられません。 - 法定代理:Aが病気や事故で不在の時に、法律の規定で当然にBが代理すること。
→ 法律の規定があれば、全事務を代理できます。
- 授権代理(任意代理):AがBに「任せた」と言って代理させること。
- 授権代理の場合:AはBを指揮監督できる。
- 法定代理の場合:Aは不在(事故等)なので、そもそも指揮監督できない。
(2) 権限の委任(権限の譲渡)
行政庁Aが、自分の権限の一部をBに移転(譲渡)してしまう方法です。これが最もよく使われます。
- 要件:権限の所在が変わる(責任者が変わる)ため、必ず「法律の根拠」が必要です。
- 表示:権限をもらった「受任者B」の名前で表示します(「A」の名前は出しません)。
- 対象:権限の一部に限られます(全部委任は禁止)。
- 指揮監督:原則として、権限を手放したので指揮監督権も失われます。ただし、上級行政庁として一般的指揮監督権(地方自治法など)がある場合は監督できます。
具体例で比較:代理と委任
シーン:知事が忙しいので、営業許可の仕事を部下に任せたい。
- 代理の場合:許可証には「知事 〇〇 代理人 副知事 △△」と書かれます。権限は知事に残っています。
- 委任の場合:許可証には「保健所長 △△」と書かれます。権限は保健所長に移っており、もし訴訟を起こすなら、被告は保健所長になります。
(3) 専決(せんけつ)・代決(だいけつ)
これは法律上の制度ではなく、役所の内部的な事務処理ルールです。
- 専決:部長や課長が、常時、一定の決裁を任されていること(内部委任)。
- 代決:決裁権者が不在の時に、部下が臨時に決裁すること(内部代理)。
- 特徴:
- あくまで「内部的」な処理なので、法律の根拠は不要です。
- 外部に対する表示は、本来の行政庁である「A」の名前で行います。
- 権限は移動していません。責任もAが負います。
【まとめ図解】3つの制度の比較表
試験直前にはこの表を見直してください。
| 項目 | 権限の代理 | 権限の委任 | 専決・代決 |
|---|---|---|---|
| 権限の移動 | 移動しない | 移動する(Bのものになる) | 移動しない |
| 法律の根拠 | 授権代理は不要な場合あり 法定代理は必要 |
必ず必要 | 不要 |
| 対外的な表示名 | A代理人B (顕名あり) |
Bの名 (受任者名) |
Aの名 (本来の行政庁名) |
| 処分の効果 | Aに帰属 | B(及びその行政主体)に帰属 | Aに帰属 |
4. 実戦問題で確認!
1. 日本銀行は、特別の法律により設立され、財務大臣の認可を設立の要件とする認可法人であり、行政主体の一種とされる。
2. 国立印刷局や造幣局は、独立行政法人の中でも国の行政事務と密接に関連する業務を行う行政執行法人であり、その職員は国家公務員の身分を有する。
3. 東京23区(特別区)は、地方自治法上の特別地方公共団体であり、市町村と同様に行政主体としての法人格を有する。
4. 土地改良区や健康保険組合は、公共組合と呼ばれる行政主体であり、その構成員に対して強制加入権や経費賦課徴収権などの公権力を行使することができる。
5. 日本放送協会(NHK)は、総務省設置法に基づき設立された指定法人であり、放送法に基づく業務を行うが、行政主体としての性質は有しない。
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正解 5
解説:
1, 2, 3, 4はすべて正しい記述です。
5. 妥当でない。日本放送協会(NHK)は、放送法という特別の法律に基づいて設立される「特殊法人」であり、行政主体の一種として扱われます。「指定法人」でも「行政主体としての性質を有しない」わけでもありません。
1. 行政庁とは、行政主体のために意思を決定し、これを外部に表示する権限を有する機関をいい、各省大臣や都道府県知事のような独任制の機関に限られ、公正取引委員会のような合議制の機関は含まれない。
2. 諮問機関とは、行政庁の諮問に応じて意見を述べる機関であり、その答申は行政庁を法的に拘束するため、行政庁は答申と異なる決定をすることはできない。
3. 参与機関とは、行政庁の意思決定に関与し、その議決が行政庁を法的に拘束する機関をいい、電波監理審議会などがこれに該当する。
4. 補助機関とは、行政庁の職務を補助する機関をいい、一般職の職員がこれに該当するが、副大臣や副知事などの特別職は行政庁に含まれるため補助機関ではない。
5. 執行機関とは、行政庁の命を受けて実力を行使する機関をいい、警察官や徴税職員がこれにあたるが、地方自治法にいう「執行機関」もこれと同じ意味で用いられている。
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正解 3
解説:
1. 妥当でない。行政庁には、公正取引委員会などの合議制の機関も含まれます。
2. 妥当でない。諮問機関の答申には、原則として法的拘束力がありません。
3. 妥当である。参与機関の議決には法的拘束力があります。
4. 妥当でない。副大臣や副知事も、行政庁(大臣や知事)を補佐する補助機関です。
5. 妥当でない。講学上の執行機関(警察官等)と、地方自治法上の執行機関(長、委員会等)は、言葉は同じでも意味が異なります。
1. 権限の委任は、法律上行政庁に与えられた権限の一部を他の機関に移譲するものであるため、必ず法律の根拠が必要であり、受任機関は自己の名において当該権限を行使する。
2. 権限の代理のうち、法定代理は、本来の行政庁が事故等により職務を行えない場合に法律上当然に代理関係が生じるものであるため、代理機関は本来の行政庁の指揮監督に服することとなる。
3. 専決および代決は、行政庁の権限を内部的に補助機関に処理させるものであるが、対外的な表示は決裁をした補助機関の名において行われる。
4. 授権代理(任意代理)は、行政庁が授権行為によって代理権を与えるものであるため、権限の全部を代理させることも可能であり、また法律の根拠は不要である。
5. 権限の委任がなされた場合、委任した行政庁は権限を喪失するため、受任機関に対する指揮監督権も当然に消滅し、いかなる場合も監督を行うことはできない。
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正解 1
解説:
1. 妥当である。権限の委任には「法律の根拠」「一部の移譲」「受任者名での行使」が必要です。
2. 妥当でない。法定代理の場合、本人は事故等で不在のため、物理的に指揮監督することができません。
3. 妥当でない。専決・代決の場合、対外的には本来の行政庁の名(例:知事名)で表示されます。
4. 妥当でない。授権代理において、権限の全部を代理させることは認められません(一部のみ)。
5. 妥当でない。権限の委任により本来の権限は失われますが、上級行政庁として一般的指揮監督権がある場合などは、監督が可能なことがあります。
5. まとめと学習のアドバイス
行政組織法は、言葉の定義を正確に覚えることが合格への近道です。
- 諮問(拘束しない) vs 参与(拘束する)
- 代理(A代理B) vs 委任(Bの名) vs 専決(Aの名)
この2つの対比は、試験会場で迷わないように、具体的なイメージ(許可証のハンコが誰の名前になるか)とセットで記憶しておきましょう。
特に「権限の委任」は、後に行政事件訴訟法で「誰を被告にするか(被告適格)」という論点にもつながる重要な基礎知識です。
よくある質問(FAQ)
- Q1. 権限の委任に「法律の根拠」が必要なのはなぜですか?
- 権限の委任を行うと、その仕事の責任者(権限の所在)が法的に移動してしまうからです。国民から見れば、「誰が責任を持って判断したのか」が変わる重大な変更なので、国会の承認である法律の根拠が必要とされています。
- Q2. 「専決」と「代決」の具体的な違いは何ですか?
- どちらも内部的な処理ですが、「専決」は常時任されているルーチンワーク(例:課長がいつも決裁する事務)を指し、「代決」は本来の決裁者が急病や出張などで不在の時に、ピンチヒッターとして緊急に行うものを指します。
- Q3. 独立行政法人と特殊法人はどうやって見分けますか?
- 試験対策上は、主要な具体例を覚えるのが早道です。NHKや日本年金機構など、特別の法律で作られる「特殊法人」を押さえ、それ以外(造幣局など)は独立行政法人と判断すると良いでしょう。また、日銀は「認可法人」という特別な枠組みである点も重要です。
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