行政法を勉強していると、「強制執行」と「即時強制」の違いで混乱することがよくあります。
どちらも国民の身体や財産に実力を行使する点では同じですが、その「前提条件」が全く異なります。
また、「罰金」と「過料」の違いや、「課徴金」と「刑事罰」は両方科されるのか?といった論点も、試験では頻出です。
今回の講義では、前回の「行政上の強制執行」に続き、それ以外の強制手段である「即時強制」と「行政罰」、そして近年重要性を増している「新しい義務履行確保手段(課徴金・公表など)」について解説します。
- 「即時強制」と「直接強制」の決定的な違い
- 行政刑罰(懲役・罰金)と秩序罰(過料)の区別
- 「二重処罰の禁止(憲法39条)」と併科の可否
- 課徴金や氏名公表などの新しい手法の法的性質
1. 行政上の強制執行以外の強制手段(新しい手法)
伝統的な「強制執行」や「行政罰」だけでは、現代の複雑な行政課題に対応しきれない場合があります。
そこで、近年では以下のような新しい手法が活用されています。
(1) 課徴金(かちょうきん)
違反行為によって得た不当な利益を、国が没収する制度です。
(例)独占禁止法のカルテル、金融商品取引法のインサイダー取引など。
【重要論点】課徴金と刑事罰の併科
同じ違反行為に対して、刑事罰(罰金など)と課徴金の両方を科すことは、憲法39条の「二重処罰の禁止」に違反しないでしょうか?
判例(最判平10.10.13):違反しない(合憲)。
理由は、両者の目的が異なるからです。
・刑事罰:反社会的な行為に対する制裁。
・課徴金:不当な経済的利得の剥奪(やり得を許さない)。
したがって、両方を科しても二重処罰には当たりません(ただし、調整規定が置かれることはあります)。
(2) 行政サービスの拒否(供給拒否)
「義務を守らないなら、水道を止めるぞ」といった手法です。
しかし、水道などのライフラインは独占事業であり、生活に不可欠なため、安易な拒否は許されません。
判例の基準(水道法15条「正当な理由」):
・適法:水不足が深刻で、これ以上供給すると全体が破綻する場合(最判平11.1.21)。
・違法:行政指導(要綱)に従わないことへの制裁として給水を拒否する場合(武蔵野市マンション事件・最判平元.11.8)。
(3) 氏名等の公表(公表制度)
違反者の名前を世間にさらすことで、社会的信用を低下させ、心理的に義務履行を迫る手法です。
(例)建築基準法違反の業者名の公表、条例違反者の公表など。
これは「制裁」的な性格を持ちますが、法律上は「事実行為」として扱われることが多く、名誉権の侵害にならないよう慎重な運用が求められます。
2. 即時強制(そくじきょうせい)
ここが試験の重要ポイントです。「直接強制」との違いを明確にしましょう。
(1) 即時強制の意味
即時強制とは、「義務の不履行を前提とせず」、目前急迫の障害を除くために、直接、国民の身体や財産に実力を加える作用です。
具体例:
・火事の現場で、延焼を防ぐために隣の家を壊す(消防法)。
・泥酔して暴れている人を保護する(警察官職務執行法)。
・感染症患者を強制入院させる(感染症法)。
(2) 直接強制との違い(比較表)
| 項目 | 直接強制(強制執行の一種) | 即時強制 |
|---|---|---|
| 前提 | 義務の不履行があること (命令したのに従わない) |
義務の不履行を前提としない (命令する暇がない、または性質上なじまない) |
| 手続き | 義務を命じる → 履行期限を待つ → 実力行使 | いきなり実力行使 |
| 例 | 成田新法による工作物の撤去 | 泥酔者保護、違法駐車レッカー移動 |
(3) 法律の根拠
即時強制は、国民の権利をいきなり侵害する強力な作用なので、必ず「法律(または条例)」の根拠が必要です(法律の留保)。
※行政代執行法のような一般法はなく、個別の法律(消防法など)に基づいて行われます。
3. 行政罰(過去の違反への制裁)
行政上の義務違反に対し、制裁として科される罰です。「行政刑罰」と「秩序罰」の2種類があります。
(1) 行政刑罰(ぎょうせいけいばつ)
刑法典に名前がある刑罰(懲役、禁錮、罰金、拘留、科料)を科すものです。
(例)無許可営業に対する懲役刑や罰金刑。
- 手続:刑事訴訟法に基づき、裁判所が科します。
- 原則:刑法総則が適用されます(故意が必要など)。
(2) 行政上の秩序罰(ちつじょばつ)
軽微な違反(届出忘れなど)に対し、「過料(かりょう)」を科すものです。
※刑罰ではないので、前科にはなりません。
- 手続(国の場合):非訟事件手続法に基づき、裁判所が決定します(略式の手続き)。
- 手続(地方の場合):条例・規則違反に対しては、地方公共団体の長が行政処分として科します(地方自治法)。
・行政刑罰 = 科料(かりょう):金額が小さい刑罰。
・秩序罰 = 過料(かりょう):刑罰ではない金銭制裁。
読み方は同じですが、法的性質は全く異なります。
(3) 併科(へいか)の可否
「ダブルパンチ」ができるかどうかの問題です。
| 組み合わせ | 併科の可否 | 理由 |
|---|---|---|
| 行政刑罰 + 秩序罰 | できる(最判昭39.6.5) | 目的や性質が違うため、二重処罰には当たらないとされる。 |
| 行政罰 + 強制執行 | できる | 「過去の制裁」と「将来の履行確保」で目的が違うから。 |
| 行政刑罰 + 刑事罰 | できない | 同じ「刑罰」なので、二重処罰になる。 |
4. 実戦問題で確認!
1. 即時強制は、義務の不履行を前提として行われる強制手段であり、目前急迫の障害を除くために必要がある場合に行われる。
2. 直接強制は、義務者の身体や財産に直接実力を加える手段であり、人権侵害の度合いが強いため、条例で定めることはできず、法律の根拠が必要である。
3. 警察官職務執行法に基づく泥酔者の保護や、消防法に基づく消火活動のための土地の使用は、義務の不履行を前提とする直接強制の例である。
4. 即時強制を行うには、必ず行政代執行法の規定に従わなければならず、個別の法律の根拠だけでは行うことができない。
5. 即時強制は、国民の身体・財産に実力を加える作用であるため、法律の根拠が必要であるが、条例を根拠として行うことは許されない。
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正解 2
解説:
1. 妥当でない。即時強制は「義務の不履行を前提としない」点が特徴です。
2. 妥当である。直接強制は行政代執行法1条により「法律」に限られ、条例では設定できません。
3. 妥当でない。これらは義務を命じる暇がない緊急時の措置であり、「即時強制」の例です。
4. 妥当でない。即時強制に関する一般法(行政代執行法のようなもの)はありません。個別の法律に基づいて行われます。
5. 妥当でない。即時強制は、条例を根拠として行うことも許されると解されています(直接強制とは異なります)。
1. 行政刑罰と行政上の秩序罰は、いずれも行政上の義務違反に対する制裁であるため、同一の行為に対して両者を併科することは、憲法39条の二重処罰の禁止に違反し許されない。
2. 独占禁止法に基づく課徴金の納付命令と、同一の違反行為に対する刑事罰の科刑は、目的や要件を異にするため、両者を併科しても憲法39条に違反しない。
3. 地方公共団体の条例に基づく過料(秩序罰)は、地方自治法の規定により、地方裁判所の決定によって科される。
4. 執行罰(過料)は、過去の義務違反に対する制裁であるため、同一の義務違反に対して複数回科すことはできず、一事不再理の原則が適用される。
5. 交通反則金制度(反則金の納付)は、行政刑罰の一種であり、反則金を納付したとしても、後に公訴を提起されて刑事裁判を受ける可能性がある。
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正解 2
解説:
1. 妥当でない。行政刑罰と秩序罰は併科可能です(最判昭39.6.5)。
2. 妥当である。課徴金と刑事罰の併科は合憲です(最判平10.10.13)。
3. 妥当でない。条例・規則違反の過料は、地方公共団体の長が行政処分として科します(国の法律違反の過料は裁判所)。
4. 妥当でない。執行罰は「将来の履行確保」が目的であり、義務が履行されるまで複数回科すことができます。
5. 妥当でない。反則金を納付すれば、公訴を提起されない(刑事裁判にならない)という制度です(通告処分)。
1. 行政機関が、法令違反の事実や違反者の氏名を公表することは、国民の知る権利に資するとともに制裁的機能も有するが、法律の根拠なく行われた場合でも直ちに違法とはならない。
2. 水道事業者が、給水契約の申込みを拒否することは原則として許されないが、水不足が深刻化するおそれがあるなど「正当な理由」がある場合には、拒否することが認められる。
3. 地方公共団体が、行政指導(要綱)に従わない開発業者に対して給水を拒否することは、水道法15条1項の「正当な理由」には当たらず、違法である。
4. 課徴金制度は、違反行為者が得た不当な利得を剥奪することを主たる目的とするものであり、独占禁止法や金融商品取引法などで導入されている。
5. 氏名公表制度は、義務違反者の社会的信用を低下させることにより心理的強制を加えるものであるが、名誉毀損等の問題が生じうるため、条例で定めることはできず、法律の根拠が必要である。
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正解 5
解説:
1, 2, 3, 4は妥当な記述です。
5. 妥当でない。氏名公表は事実行為であり、また地域の秩序維持のために条例で定めることも可能と解されています(実際に多くの自治体で条例化されています)。
5. まとめと学習のアドバイス
今回の分野は、用語の定義を正確に覚えることが得点への近道です。
- 即時強制 vs 直接強制:「義務の不履行」が前提かどうか。
- 行政刑罰 vs 秩序罰:「刑法・裁判所」か「過料・非訟事件(または長)」か。
- 併科の可否:「目的が違えばOK(課徴金と刑罰など)」。
特に「即時強制」は、行政代執行法のような一般法がないため、個別の法律(消防法など)の知識と絡めて出題されることがあります。「緊急時の例外的な実力行使」というイメージを持って学習してください。
よくある質問(FAQ)
- Q1. 「過料(かりょう)」と「科料(かりょう)」はどうやって聞き分けるのですか?
- 口頭では同じ発音ですが、法律の専門家は区別するために、過料を「あやまち・りょう」、科料を「とが・りょう」と呼んで区別することがあります。試験では漢字で書かれているので、文字を見て「過料=秩序罰(行政罰)」「科料=刑罰(行政刑罰)」と即座に変換できるようにしましょう。
- Q2. 路上喫煙禁止条例の過料は誰が科すのですか?
- 条例違反に対する過料(秩序罰)なので、地方公共団体の長(市長や区長など)が行政処分として科します。裁判所の手続き(非訟事件)ではありません。ここが国の法律違反の過料との大きな違いです。
- Q3. レッカー移動は即時強制ですか?
- はい、一般的には即時強制に分類されます。違法駐車という状態(障害)を排除するために、運転手の同意や義務命令の手続きを経ずに、直接財産(車)に実力を加えて移動させるからです。ただし、放置違反金制度などは行政制裁的な側面も持っています。
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