「市長と市議会が対立して、予算が決まらない!」
ニュースでたまに見かける光景ですが、地方自治法では、このように長(執行機関)と議会(議決機関)が対立した場合の解決ルールが細かく決められています。
国の政治(議院内閣制)とは異なり、地方自治体では「二元代表制」が採用されています。
長も議員も、どちらも住民から直接選ばれた代表です。だからこそ、対等な緊張関係があり、意見が食い違ったときの調整メカニズム(再議や専決処分など)が重要になります。
この分野は、「再議の種類と要件」や「不信任決議の定足数・表決数」など、数字や条件を正確に覚える必要があるため、受験生が苦手としやすいポイントです。
今回の講義では、長と議会の関係調整の仕組みを、ストーリー仕立てでわかりやすく解説します。
- 二元代表制の特徴と国政との違い
- 長が議会の決定を拒否する「再議(一般的・特別的)」の仕組み
- 議会を通さずに長が決める「専決処分」の要件と事後処理
- 「不信任決議」から「解散」または「失職」までのフロー
- 本試験レベルの多肢選択式問題による実戦演習
1. 二元代表制(長と議会の対等な関係)
日本国憲法93条2項は、地方公共団体の長と議会議員の両方を、住民が直接選挙で選ぶと定めています。
これを「二元代表制(にげんだいひょうせい)」といいます。
- 国政(議院内閣制):国民は国会議員を選び、国会が首相を選ぶ(一元代表)。
- 地方(二元代表制):住民は「長」と「議員」のそれぞれを選ぶ。
両者は対等な関係にあり、互いに抑制し合いながら均衡を保っています。
しかし、意見が対立して行政がストップしてしまうと困ります。そこで、地方自治法は以下の3つの調整手段を用意しています。
- 再議(さいぎ):長が議会に「もう一度考え直して」と返すこと。
- 専決処分(せんけつしょぶん):長が議会の代わりに決めること。
- 不信任決議と解散:伝家の宝刀を抜き合う最終手段。
2. 再議(長の拒否権)
議会の議決に対して、長が異議がある場合に審理をやり直させる制度です。
「任意で行うもの(一般的拒否権)」と「義務として行うもの(特別的拒否権)」の2種類があります。
(1) 任意での再議(一般的拒否権)
長が「その条例案は政策的に反対だ」など、内容に不満がある場合に行使します(176条1項)。
- 対象:議会の議決全般(条例、予算など)。
- 期間:議決の日(条例・予算は送付を受けた日)から10日以内。
- 効果:議会は再審議しなければなりません。
【再議決の要件】
再議の結果、議会が「やっぱりこれでいく!」と再議決する場合の要件です。
- 原則:過半数の同意(通常の議決と同じ)。
- 例外(条例・予算):出席議員の3分の2以上の同意が必要(ハードルが上がる)。
再議決されると、その議決は確定します。長はもう文句を言えません(解散もできません)。
(2) 義務的に行う再議(特別的拒否権)
「内容が気に入らない」ではなく、「法律違反だ」とか「予算がないのに無理だ」といった客観的な問題がある場合、長は必ず再議に付さなければなりません(義務)。
① 違法な議決等(176条4項)
議決が「権限を超えている」または「法令・会議規則に違反している」と認めるとき。
- 対応:再議決されてもなお違法なら、長は総務大臣(または都道府県知事)に審査を申し立てることができます(21日以内)。
- さらに不服なら:大臣等の裁定に不服があれば、裁判所に出訴できます(60日以内)。
② 義務費の削除・減額(177条1項1号)
人件費や生活保護費など、法律上どうしても払わなければならない経費(義務費)を、議会が削除してしまった場合。
- 対応:再議決されてもなお削除されたままなら、長はその経費を予算に計上して支出することができます(原案執行権)。
③ 非常災害・感染症予防費の削除(177条1項2号)
災害復旧費などを削除された場合。
- 対応:再議決されてもなお削除されたままなら、長はその議決を「不信任の議決」とみなすことができます(つまり、議会を解散できる)。
【まとめ表】再議の種類
| 種類 | 理由 | 義務 | 再議決後の対抗手段 |
|---|---|---|---|
| 一般的拒否権 | 政策的な異議 | 任意 | なし(確定する) |
| 特別的拒否権 | 違法な議決 | 義務 | 大臣等への審査申立て → 提訴 |
| 義務費の削除 | 義務 | 自ら計上・支出(原案執行) | |
| 災害費等の削除 | 義務 | 不信任とみなす(解散可能) |
3. 専決処分(議会に代わる決定)
本来は議会が決めるべきこと(条例や予算など)を、長が代わって決めてしまう制度です。
「法定の専決処分(179条)」と「委任による専決処分(180条)」があります。
(1) 法定の専決処分(179条)
緊急時などに認められるものです。以下の4つのケースに限られます。
- 議会が成立しないとき(定足数不足、議員の辞職など)。
- 緊急の必要があるとき(招集する時間的余裕がない)。
- 議決しないとき(審議未了など)。
- 不信任議決・解散のあるとき(選挙までの空白期間)。
【事後処理】
長は、次の会議においてこれを議会に報告し、「承認」を求めなければなりません。
議会が「承認しない」と議決しても、専決処分の効力は失われません(有効のままです)。
ただし、長は政治的・道義的責任を負うことになります。
(2) 委任による専決処分(180条)
軽微な事項(損害賠償の額の決定など)について、あらかじめ議会の議決で長に委任しておくものです。
- 事後処理:議会への「報告」だけで足ります(承認は不要)。
4. 長の不信任議決と解散(178条)
長と議会の対立が決定的になった場合、お互いの首をかけた戦いになります。
この手続きの流れと、必要な「数」を正確に覚えましょう。
(1) 不信任決議の要件
議会が長に対して「あなたを信用できない」と突きつける決議です。
【最初の不信任決議】
・定足数:議員数の3分の2以上の出席
・表決数:出席議員の4分の3以上の同意
(※非常にハードルが高いです。)
(2) 不信任可決後の流れ
不信任が決議され、通知を受けた長には、2つの選択肢があります。
- 議会を解散する:通知から10日以内に解散できます。
- 失職する:解散せずに10日が経過すると、長は職を失います。
(3) 解散後の再度の不信任
長が議会を解散し、選挙で新しい議員が選ばれました。
それでもなお、新議会が長を許さない場合、2回目の不信任決議が行われます。
【2回目の不信任決議】
・定足数:議員数の3分の2以上の出席
・表決数:出席議員の過半数の同意
(※ハードルが下がります。)
【効果】
2回目が可決されると、長は即座に失職します(もう解散はできません)。
1. 議会「不信任だ!(3/4)」
↓
2. 長「解散だ!」 or 「辞めます…」
↓(解散の場合)
3. 選挙(民意を問う)
↓
4. 新議会「やっぱり不信任だ!(過半数)」
↓
5. 長「失職(ゲームオーバー)」
5. 実戦問題で確認!
1. 長は、議会の議決について異議があるときは、その議決の日から10日以内に理由を示して再議に付さなければならない。
2. 条例の制定に関する議決について再議に付された場合、議会において出席議員の過半数の同意があれば、当該議決は確定する。
3. 議会の議決がその権限を超えると認めるときは、長はこれを再議に付さなければならず、これは長の裁量ではなく法的義務である。
4. 義務費を削除する議決がなされた場合、長はこれを再議に付さなければならないが、再議決でもなお削除されたときは、長は議会を解散することができる。
5. 非常災害のために必要な経費を削除する議決がなされた場合、長はこれを再議に付さなければならないが、再議決でもなお削除されたときは、長はその経費を自ら予算に計上して支出することができる。
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正解 3
解説:
1. 誤り。一般的拒否権は「付することができる」であり、義務ではありません。
2. 誤り。条例・予算の再議決は「出席議員の3分の2以上」の同意が必要です(176条3項)。
3. 正しい。違法な議決に対する再議は義務(特別的拒否権)です(176条4項)。
4. 誤り。義務費削除の場合は、解散ではなく「原案執行(自ら計上・支出)」ができます(177条2項)。
5. 誤り。災害費削除の場合は、原案執行ではなく「不信任の議決とみなす」ことができます(177条3項)。
1. 長は、議会が成立しないとき、または会議を開くことができないときは、議会の議決すべき事件を処分することができる。
2. 長は、議会の議決すべき事件について、特に緊急を要するため議会を招集する時間的余裕がないことが明らかであると認めるときは、これを処分することができる。
3. 長が専決処分をしたときは、次の会議においてこれを議会に報告し、その承認を求めなければならない。
4. 議会が専決処分を承認しなかった場合、当該専決処分は初めに遡って効力を失う。
5. 議会は、議決すべき事件について、特に指定して長に専決処分をさせるよう委任することができ、この場合、長は議会に報告すれば足り、承認を求める必要はない。
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正解 4
解説:
1, 2, 3, 5はすべて正しい記述です。
4. 妥当でない。議会が不承認としても、専決処分の効力には影響しません(有効のままです)。ただし、長は政治的責任を負います。
1. 最初の不信任議決の要件は、議員数の3分の2以上の者が出席し、その過半数の者の同意が必要である。
2. 不信任の議決があった場合、長は直ちに失職するが、その後に行われる選挙に立候補することは妨げられない。
3. 不信任の議決を受けた長は、その通知を受けた日から10日以内に議会を解散することができ、解散した場合は失職を免れる。
4. 議会の解散後、初めて招集された議会において再び不信任の議決がなされた場合、長は再び議会を解散することができる。
5. 2回目の不信任議決の要件は、議員数の過半数が出席し、その過半数の者の同意があれば足りる。
正解・解説を見る
正解 3
解説:
1. 誤り。最初の不信任は「4分の3以上」の同意が必要です。
2. 誤り。直ちに失職するわけではなく、解散権を行使すれば失職しません。
3. 正しい。10日以内に解散すれば、とりあえず地位は保たれます(選挙後の新議会との勝負になります)。
4. 誤り。2回目の不信任可決で長は失職します。再解散はできません。
5. 誤り。2回目の定足数は「3分の2以上」の出席が必要です(同意は過半数でOK)。
6. まとめと学習のアドバイス
長と議会の関係は、以下の「数字」と「効果」をセットで覚えましょう。
- 再議(条例・予算):出席2/3で確定。
- 不信任(1回目):出席3/4で可決 → 解散or失職。
- 不信任(2回目):出席過半数で可決 → 即失職。
- 専決処分:不承認でも有効。
特に「義務費削除」と「災害費削除」の対応の違い(原案執行か、不信任みなし)は、記述式や多肢選択式で狙われやすい細かい論点です。表を使って整理しておくと安心です。
よくある質問(FAQ)
- Q1. なぜ条例や予算の再議決は「3分の2」も必要なのですか?
- 条例や予算は自治体の運営にとって最も重要な事項だからです。長が「それはおかしい」と拒否権を発動した場合、それを覆してまで議会の意思を通すには、単なる過半数ではなく、圧倒的多数の支持(3分の2)が必要だと考えられています。
- Q2. 専決処分が不承認になったらどうなるのですか?
- 法的な効力は失われません。例えば、専決処分で契約を結んでしまった場合、議会が後で「認めない」と言っても契約は有効です。しかし、長は議会の意思を無視したことになるため、政治的責任(不信任案の提出など)を問われる可能性があります。長にとっては「メンツが潰れる」事態です。
- Q3. 不信任決議の理由は制限されていますか?
- いいえ、制限されていません。違法行為だけでなく、政策の失敗や政治的姿勢への不満など、どのような理由でも不信任決議を行うことができます。これは、長と議会が政治的な対立関係にあることを前提とした制度だからです。
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