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講義02:【行政法】公法と私法の交錯!重要判例を完全解説

行政書士試験の行政法分野において、受験生を悩ませるのが「公法と私法」というテーマです。
「行政法は公法だから、民法(私法)は関係ないのでは?」と思いきや、試験では「行政活動に民法が適用されるか?」という論点が頻出します。

公営住宅の家賃滞納、公立病院の治療費、税金の滞納処分……。これらは行政の活動ですが、その性質によっては民法のルールで処理されることがあります。この「境界線」を理解することが、本講義のゴールです。

💡 この記事で学べること

  • 行政活動に民法が適用される具体的ケース(公営住宅、建築基準法など)
  • 「消滅時効」は会計法か民法か?判例の判断基準
  • 民法177条(登記)が行政に適用される場面とされない場面
  • 行政上の権利(生活保護など)は相続・譲渡できるか

1. 行政法と民法の関係(公法と私法)

公法と私法の区別

法律は大きく分けて、以下の2つに分類されます。

  • 公法:国家と国民の関係、あるいは国家組織のあり方を規律する法(憲法、行政法、刑法など)。
  • 私法:私人(一般市民)同士の対等な関係を規律する法(民法、商法など)。

行政法は当然「公法」に属します。しかし、行政活動は多岐にわたるため、行政法独自の規定がない場合や、行政活動の実態が私人間の取引と変わらない場合(例:水道の供給契約など)には、私法の一般法である「民法」の規定が適用(または類推適用)されることがあります。

試験では、「このケースで民法の適用はあるか?」という形で、最高裁の判例知識が問われます。ここからは、テーマ別に重要判例を見ていきましょう。

2. 【契約・行為】行政活動における民法の適用・類推適用

(1) 公営住宅の使用関係と信頼関係の法理

事例:
Aさんは、県営住宅(公営住宅)に入居していましたが、友人を無断で同居させたり、家賃を滞納したりしました。県はAさんとの契約を解除しようと考えました。

解説:
公営住宅の使用関係は、公法的な側面(低所得者への福祉)と、私法的な側面(賃貸借契約)の両方を持っています。
判例(最判昭59.12.13)は、公営住宅法などに特別の定めがない限り、原則として民法や借地借家法が適用されるとしました。

したがって、民間アパートと同様に、単なる契約違反だけでなく「信頼関係が破壊された」と言える場合に初めて解除が認められるという「信頼関係の法理」も適用されます。

(2) 建築基準法と民法234条(相隣関係)

事例:
民法234条では「建物を建てるには境界線から50cm以上離さなければならない」とされています。しかし、Bさんは防火地域内で、建築基準法65条の「外壁を隣地境界線に接して設けることができる」という規定に従い、境界ギリギリに耐火構造のビルを建てようとしました。隣人のCさんは「民法違反だ!」と主張しました。

解説:
この場合、どちらの法律が優先されるでしょうか。
判例(最判平元.9.19)は、建築基準法の規定は、防火地域等の過密地帯において土地を有効活用するための「特別法」であると判断しました。
したがって、建築基準法65条の要件を満たす建物については、民法234条(50cm離すルール)の適用は排除されます。つまり、Bさんはギリギリに建てることができます。

(3) 利益相反取引と双方代理(民法108条)の類推適用

事例:
X市長が、自らが代表理事を務める「市土地開発公社(財団法人)」との間で、市の土地を売買する契約を結びました。これは、X氏が「売主(市)」と「買主(公社)」の両方の代表になる「双方代理」の状態です。

解説:
民法108条は、利益相反を防ぐために「双方代理」を原則禁止しています。
判例(最判平16.7.13)は、地方公共団体の契約であっても、公共団体の利益が害されるおそれがある場合には、民法108条が類推適用されるとしました。

この場合、契約は「無権代理行為」となり、原則として無効(効果不帰属)ですが、議会が後から追認すれば有効になります。

(4) 取締法規違反の契約の効力

事例:
食品衛生法では、食肉販売には都道府県知事の許可が必要とされています。しかし、D業者は無許可で営業し、Eさんから食肉を仕入れる「買入契約」を結びました。Dは「この契約は法律違反だから無効だ。代金は払わない」と主張できるでしょうか?

解説:
食品衛生法は、国民の健康を守るための「取締法規」です。判例(最判昭35.3.18)は、この法律は行政上の取り締まりを目的とするものであり、私法上の契約の効力まで否定するものではない(=契約自体は有効)としました。
つまり、D業者は処罰される可能性はありますが、Eさんへの代金支払義務はなくなりません。

3. 【財産・時効】公共財産と時効取得・消滅時効

(1) 公共用財産は時効取得できるか?

事例:
Fさんは、長年自分の畑として耕していた土地の一部が、実は昔の「里道(市町村が管理する道路)」だったことを知りました。Fさんは「20年以上平穏に占有していたから、時効取得(民法162条)したい」と主張しました。

解説:
本来、公園や道路などの「公共用財産」は、国民みんなのものなので、特定の個人のものにはできません(時効取得の対象外)。
しかし、判例(最判昭51.12.24)は例外を認めました。

💡 黙示の公用廃止

以下の条件を満たす場合、行政側が手続きをしていなくても「黙示的に公用が廃止された」とみなされ、時効取得の対象になります。

  1. 長年の間、事実上公の目的に使われておらず放置されていること。
  2. 公共用財産としての形態・機能を完全に喪失していること。
  3. 他人の占有を認めても、公共の目的が害されないこと。

(2) 国の金銭債権と消滅時効(会計法 vs 民法)

ここが非常にややこしい論点です。
国の金銭債権や国に対する債権の時効期間は、行政法である「会計法(5年)」が適用されるのか、私法である「民法(原則5年/10年など)」が適用されるのか、ケースによって異なります。

判例は、その債権の「性質」に着目して判断しています。

ケース 性質 適用法と時効期間
安全配慮義務違反による損害賠償請求権
(例:自衛官が公務中に死亡)
国と公務員の関係も、私人間(企業と従業員)の雇用契約と本質は同じ。
私法上の債権に近い
民法が適用される。
(※旧民法では10年。現行法では、人の生命身体の侵害は知った時から5年、行為から20年)
普通財産の売払代金債権
(例:国が使わない土地を売った代金)
国が私人と対等な立場で取引したもの。
私法上の債権
民法が適用される。
(会計法の5年ではない)
公立病院の診療費債権
(例:市立病院の治療費)
私立病院で行われる診療と本質的な差異はない。
私法上の債権
民法が適用される。
(地方自治法の5年ではない)
💡 学習のポイント

試験対策としては、「公立病院の診療費や普通財産の売却代金は、実質的に民間と同じ商売だから、民法の時効が適用される」と覚えておきましょう。
※なお、2020年の民法改正により、民法の時効期間も原則「知った時から5年」となりましたが、試験では「会計法/地方自治法ではなく民法が適用される」という結論が重要です。

4. 【対抗要件】民法177条と行政の特権

民法177条は、「不動産の権利変動は、登記をしなければ第三者に対抗できない」というルールです。これが行政活動にも適用されるかが問題となります。

(1) 自作農創設特別措置法による買収(農地改革)

判例(最大判昭28.2.18):
戦後の農地改革で、国が地主から強制的に農地を買収した処分については、民法177条の適用はないとされました。つまり、国は登記がなくても「これは国のものになった」と主張できました。
(理由:大量の農地を一斉に処理する迅速性が求められたため)

注意点(最大判昭41.12.23):
ただし、国が買収したに、その農地を誰かに売却したりする場合は、通常の取引と同じなので民法177条が適用されます。国も登記をしないと権利を主張できません。

(2) 国税滞納処分による差押え

事例:
Gさんが土地を買いましたが、移転登記をしていませんでした。その間に、元の所有者の税金滞納により、国がその土地を差し押さえてしまいました。

解説:
判例(最判昭31.4.24)は、租税債権を持つ国も、一般の債権者と同じ立場(自力執行権があるだけ)であるとし、民法177条の適用があるとしました。
つまり、Gさんは登記をしていない以上、国に対して「自分の土地だ!」と対抗できず、差押えが有効となります。

5. 【相続・地位】一身専属権と承継

民法では、財産権は原則として相続されます。しかし、行政法上の権利には、その人にしか認められない「一身専属権」が多く、相続や譲渡が否定される場合があります。

(1) 公営住宅の入居権と生活保護受給権

  • 公営住宅の入居権(最判平2.10.18):
    入居者は低所得者である等の条件審査を経て選ばれたものなので、一身専属の権利です。入居者が死亡しても、相続人が当然に承継するわけではありません(※同居の承認を得て住み続けることは可能な場合がありますが、権利自体は相続されません)。
  • 生活保護受給権(朝日訴訟・最大判昭42.5.24):
    これも個人の最低生活を保障する一身専属の権利であり、譲渡も相続もできません。受給者が死亡した場合、未支給分があっても相続人は請求できません。

(2) 地方議会議員の報酬請求権(譲渡可能)

一方で、地方議会議員の報酬請求権については、判例(最判昭53.2.23)は「譲渡できる」としました。
公法上の権利ではありますが、単なる「金銭的な価値」に過ぎず、特定の者に専属させる理由がないからです。

(3) 供託金払戻請求権の却下

供託官(国の機関)が、供託金の払い戻し請求を却下した場合、これは民法上の「履行拒絶」ではなく、行政法上の「行政処分」にあたるとされました(最大判昭45.7.15)。
したがって、不服がある場合は、民事訴訟ではなく、処分の取消訴訟(行政訴訟)で争う必要があります。

6. 実戦問題で確認!

問1:行政活動と民法の適用
行政活動に対する民法等の適用の可否に関する次の記述のうち、判例の趣旨に照らし妥当なものはどれか。
1. 公営住宅の使用関係については、公法上の関係であることから、公営住宅法に特別の定めがない限り民法及び借地借家法の適用はなく、家賃滞納による契約解除に際しても信頼関係の法理は適用されない。
2. 建築基準法65条が、防火地域等における外壁の後退距離を定めている場合、同規定の要件を満たす建物であっても、民法234条1項の規定(50cm以上の距離保持義務)は排除されず、相隣関係の規定が適用される。
3. 普通地方公共団体の長が、自らが代表を務める団体との間で契約を締結する場合、当該団体の利益を図る目的があったとしても、形式的に適法であれば民法108条(双方代理)の規定は類推適用されない。
4. 食品衛生法に基づく許可を受けずに食肉販売業を営む者が行った食肉の買入契約は、取締法規である同法に違反するものであるため、私法上の効力も無効となる。
5. 公共用財産であっても、長年の間事実上公の目的に供されることなく放置され、公共用財産としての形態・機能を喪失し、他人の占有を認めても公共の目的が害されない場合には、時効取得の対象となり得る。
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正解 5

解説:

1. 妥当でない。公営住宅の使用関係には、原則として民法及び借地借家法が適用され、信頼関係の法理も適用されます(最判昭59.12.13)。

2. 妥当でない。建築基準法65条の規定は民法の特別法であり、同条の要件を満たす場合、民法234条の適用は排除されます(最判平元.9.19)。

3. 妥当でない。地方公共団体の長と相手方との利益相反行為には、地方公共団体の利益が害されるおそれがある場合、民法108条が類推適用されます(最判平16.7.13)。

4. 妥当でない。食品衛生法は取締法規であり、これに違反した契約も私法上は有効です(最判昭35.3.18)。

5. 妥当である。いわゆる「黙示の公用廃止」の要件を満たす場合、公共用財産も取得時効の対象となります(最判昭51.12.24)。

問2:公法上の債権と消滅時効
国または地方公共団体に関わる債権の消滅時効に関する次の記述のうち、判例の趣旨に照らし妥当でないものはどれか。
1. 国の公務員に対する安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求権の消滅時効期間は、会計法の規定ではなく、民法の規定に基づいて判断される。
2. 国の普通財産の売払代金債権は、私法上の金銭債権としての性質を有するため、その消滅時効期間については民法の規定が適用される。
3. 公立病院における診療に関する債権は、公立病院での診療が私立病院と本質的な差異がないことから、地方自治法の規定(5年)ではなく、民法の規定に基づいて時効期間が決まる。
4. 国が行政処分としての違法な課税処分により徴収した税金に対する、納税者の過納金還付請求権は、公法上の不当利得返還請求権であるため、会計法等の規定ではなく、常に民法の時効期間が適用される。
5. 会計法30条は、金銭の給付を目的とする国の権利の消滅時効を5年と定めているが、これらが適用されるのは公法上の金銭債権に限られず、私法上の金銭債権であっても法令に特別の定めがない限り適用される場合がある。
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正解 4

解説:

1, 2, 3はすべて判例の趣旨通りで妥当です(安全配慮義務、普通財産、公立病院は「民法」適用)。

4. 妥当でない。(補足知識)過納金還付請求権の時効については、法律(国税通則法など)に特別の定めがある場合はそれに従います。本問の文脈では、判例が明示的に民法適用を認めた前述の3ケースと異なり、税務関係は特別法の適用が優先されるため「常に民法」とする点は誤りです。
※選択肢5について:会計法の5年時効は、国に対する債権一般に適用されるのが原則ですが、判例が挙げたような「私法上の取引と変わらないもの」については民法が適用されるというロジックになっています。

問3:民法177条の適用と一身専属権
行政法上の権利関係に関する次の記述のうち、判例の趣旨に照らし妥当なものはどれか。
1. 自作農創設特別措置法に基づく農地買収処分により国が農地を取得した場合、国は登記がなければ、その所有権を第三者に対抗することができない。
2. 国税滞納処分により国が土地を差し押さえた場合において、その土地の所有権移転登記を経ていない第三者は、国に対して所有権を対抗することができない。
3. 生活保護法に基づく保護受給権は、被保護者の一身専属の権利であるが、未支給の保護費については金銭債権として具体化しているため、相続の対象となる。
4. 公営住宅の入居者が死亡した場合、その相続人は、公営住宅法上の入居要件を備えているか否かにかかわらず、当然に公営住宅を使用する権利を承継する。
5. 地方議会議員の報酬請求権は、議員の身分に伴う公法上の権利であるため、これを第三者に譲渡することはできず、譲渡契約は無効である。
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正解 2

解説:

1. 妥当でない。自作農創設特別措置法による買収処分には、民法177条の適用はなく、登記なくして対抗できます(最大判昭28.2.18)。

2. 妥当である。滞納処分による差押えについては、民法177条の適用があり、国は第三者と同様に扱われます。したがって、登記のない第三者は国に対抗できません(最判昭31.4.24)。

3. 妥当でない。生活保護受給権は一身専属権であり、相続の対象となりません(最大判昭42.5.24)。

4. 妥当でない。公営住宅の使用権は一身専属的であり、当然には承継されません(最判平2.10.18)。

5. 妥当でない。地方議会議員の報酬請求権は、単なる経済的価値として譲渡が可能です(最判昭53.2.23)。

7. まとめ:判例の「結論」と「理由」をセットで覚える

行政法と民法の交錯分野は、抽象的な理論よりも「判例がどの法律を適用したか」という結論が試験で問われます。

  • 公営住宅・公立病院・普通財産・安全配慮義務 ➡ 民法(私法)が適用
  • 建築基準法(65条)・農地買収 ➡ 特別法(行政法)が優先(民法排除)
  • 滞納処分 ➡ 民法(177条)が適用

このように整理しておくと、迷わずに解答できるようになります。特に「時効」と「登記」は、民法科目との横断知識としても重要ですので、しっかり復習しておきましょう。

よくある質問(FAQ)

Q1. 「公法」と「私法」を区別する実益(メリット)は何ですか?
主に「裁判の手続き」が異なります。公法上の関係(処分の取消しなど)は「行政訴訟(抗告訴訟)」で争いますが、私法上の関係(土地の売買代金など)は「民事訴訟」で争います。ただし、今回の記事で扱ったように、実体法(適用されるルール)としては民法が使われることも多く、境界線は相対的になっています。
Q2. 会計法の時効(5年)と地方自治法の時効(5年)は何が違うのですか?
基本的には同じ「公法上の金銭債権の時効」を定めたものです。国に対する債権や国の債権なら「会計法」、地方公共団体(都道府県や市町村)に関するものなら「地方自治法」が根拠条文になります。どちらも原則5年ですが、判例により民法が適用されるケース(公立病院の診療費など)がある点が重要です。
Q3. 「黙示の公用廃止」とは具体的にどのような状態ですか?
例えば、かつては村の道路(里道)だった場所が、長年使われずに草木が生い茂り、近隣住民が自分の敷地の一部として家庭菜園にしていたようなケースです。役所が正式に「道路をやめます」と言わなくても、実態として公共性を失っていれば、取得時効の成立を認めるという考え方です。

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