「地方議会って、何をするところ?」
ニュースで「百条委員会(ひゃくじょういいんかい)」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。これは地方自治法100条に基づく議会の強力な調査権のことです。
地方自治法において、議会は「議事機関(意思決定機関)」として、執行機関(長)と対等の立場で市政・県政をチェックする重要な役割を担っています。
試験対策としては、議員の「兼職禁止」の範囲や、議会が決めなければならない「議決事件」の暗記、そして調査権の範囲などが頻出ポイントです。
今回の講義では、議会の組織構造から権限まで、合格に必要な知識を網羅的に解説します。
- 議会を置かない「町村総会」という例外制度
- 議員が兼職できない職業リスト(請負人など)
- 議会が必ず決めるべき「議決事件」の覚え方
- 「百条委員会」の強力な権限と調査対象の限界
- 本試験レベルの多肢選択式問題による実戦演習
1. 議会の設置と議員の地位
(1) 議会の設置義務と例外
普通地方公共団体(都道府県・市町村)には、議事機関として「議会」を置かなければなりません(89条)。これは憲法93条の要請でもあります。
【例外:町村総会】
ただし、「町村」においては、条例で定めることにより、議会を置かず、選挙権を有する者全員で構成する「総会(町村総会)」を設けることができます(94条)。
(※人口が極端に少ない村などで想定されていますが、現時点で設置している自治体はありません。しかし試験では「制度として存在する」ことが問われます。)
(2) 議員定数と任期
- 定数:「条例」で定めます(90条・91条)。
※かつては法律で人口区分ごとの上限がありましたが、現在は撤廃され、自治体が自由に決められます。 - 任期:4年です(93条1項)。
※解散があった場合は、その時点で任期終了となります。
(3) 議員の兼職禁止(重要)
議員は、権力の集中や癒着を防ぐため、以下の職を兼ねることができません(92条等)。
| 対象 | 兼職禁止の内容 |
|---|---|
| 国会議員 | 衆議院議員・参議院議員との兼職は不可。 |
| 地方公務員 | 当該地方公共団体の常勤の職員、短時間勤務職員とは兼職不可。 (※他の自治体の職員ならOK) |
| 請負人等 (92条の2) |
当該普通地方公共団体に対して「請負をする者」。 および、主として同一の行為をする法人の「無限責任社員、取締役、執行役、監査役」等。 (※癒着防止のため。単なる株主やヒラ社員はOK) |
| 執行機関 | 当該普通地方公共団体の長、副知事・副市町村長など。 |
「請負をする法人の取締役」は兼職禁止ですが、「請負をする法人の社員」は禁止されていません。
また、議員は「非常勤の特別職」なので、他の仕事(会社員や自営業)を持つこと自体は原則自由です。
(4) 議員の報酬
議員には、「議員報酬」、「期末手当」、および「費用弁償」(交通費など)が支給されます。
これらはすべて「条例」で定めなければなりません(203条)。
2. 議会の組織(議長・委員会)
(1) 議長・副議長
議会は、議員の中から議長と副議長を1人ずつ選挙で選びます。
議長は、議場の秩序保持、議事の整理、議会の事務統理、そして「議会の代表」としての権限を持ちます。
(2) 委員会制度
本会議ですべてを審議するのは効率が悪いため、専門的な「委員会」が設置されます。
委員会は「条例」で設置されます(任意設置)。
| 種類 | 役割 |
|---|---|
| 常任委員会 | 常設の委員会。所管の事務調査、議案・請願の審査を行う。 (例:総務委員会、文教委員会) |
| 議会運営委員会 | 議会の運営や会議規則、議長の諮問事項などを審査する。 |
| 特別委員会 | 特定の問題(付議された事件)を審査するために、臨時で設置される。 (例:予算特別委員会、災害対策特別委員会) |
委員会は、公聴会を開いたり、参考人を呼んで意見を聞いたりすることができます。
また、閉会中であっても、議決があれば審査を継続することができます(継続審査)。
3. 議会の権限①:議決権(96条)
議会の最も基本的な仕事は、自治体の意思を決定すること(議決)です。
地方自治法96条1項は、議会が議決しなければならない事項(必要的議決事件)を列挙しています。
(1) 主な議決事件(制限列挙)
以下の事項は、必ず議会の議決を経なければなりません。
- 条例を設け又は改廃すること。
- 予算を定めること。
- 決算を認定すること。
- 地方税、使用料、手数料等の徴収に関すること(法律・政令で定めるものを除く)。
- 契約の締結(政令で定める基準=予定価格などの重要なもの)。
- 財産の交換、出資、不動産の信託など。
- 負担付きの寄附・贈与を受けること。
- 権利を放棄すること。
- 重要な公の施設の長期独占利用。
- 訴えの提起、和解、調停など。
- 損害賠償の額を定めること。
96条1項のリストは「制限列挙」(これ以外は勝手に議決事項にしてはいけない)と解されています。
ただし、96条2項により、「条例」で定めることで、上記以外の事項も議決事件に追加することができます(例:基本構想の策定など)。
※法定受託事務についても、国の安全に関わること等を除き、条例で議決事件に追加可能です。
4. 議会の権限②:調査権(100条調査権)
議会が自治体の事務を監視するために認められた強力な権限です。通称「百条委員会」と呼ばれます。
(1) 調査権の内容
議会は、当該普通地方公共団体の「事務」に関する調査を行うことができます。
調査のために特に必要があるときは、以下のことができます。
- 選挙人その他の関係人の出頭・証言の請求
- 記録(資料)の提出の請求
(2) 罰則付きの強力な権限
正当な理由なく出頭しなかったり、証言を拒んだり、嘘の証言(偽証)をした場合、「禁錮刑」や「罰金刑」が科されます(100条3項)。
議会は、違反があったと認めるときは、告発しなければなりません(義務)。
(3) 調査対象の限界
「事務」であれば何でも調査できるわけではありません。以下の例外があります。
| 事務の種類 | 調査権の及ぶ範囲 |
|---|---|
| 自治事務 | 原則として全般。 ※ただし、労働委員会および収用委員会の権限に属する事務(政令指定分)は除外(独立性が高いため)。 |
| 法定受託事務 | 原則として及ぶ。 ※ただし、国の安全を害するおそれがあること等により適当でないもの(政令指定分)は除外。 |
「法定受託事務には調査権が及ばない」という選択肢は誤りです。
原則として及びますが、国の安全に関わる例外のみ除外されています。
5. 実戦問題で確認!
1. 町村においては、条例で定めることにより、議会を置かず、選挙権を有する者の総会を設けることができるが、現在、実際に総会を設けている町村は存在しない。
2. 地方公共団体の議会の議員の定数は、地方自治法により人口に応じた上限数が定められており、その範囲内で条例により定めなければならない。
3. 地方公共団体の議会の議員は、当該地方公共団体に対して請負をする者及びその支配人となることができないが、請負をする法人の取締役や監査役に就くことは禁止されていない。
4. 地方公共団体の議会の議員の任期は4年であるが、議会が解散された場合であっても、残任期間がある限り議員としての身分を保有する。
5. 地方公共団体の議会の議員は、衆議院議員または参議院議員と兼職することが認められている。
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正解 1
解説:
1. 正しい。町村総会の規定(94条)は存在しますが、実例はありません。
2. 誤り。平成23年改正により、法定の上限数は撤廃されました。現在は条例で自由に定めます。
3. 誤り。請負をする法人の取締役、執行役、監査役等も兼職禁止です(92条の2)。
4. 誤り。解散により任期は終了し、失職します。
5. 誤り。国会議員との兼職は禁止されています(92条1項)。
1. 条例を設け又は改廃することは、議会の必要的議決事件であり、長が専決処分をする場合を除き、必ず議会の議決を経なければならない。
2. 予算を定めること、および決算を認定することは、いずれも議会の議決事件に含まれる。
3. 負担付きの寄附または贈与を受けることは、将来の財政負担を伴う可能性があるため、議会の議決事件とされている。
4. 法律またはこれに基づく政令により議会の権限に属する事項以外であっても、普通地方公共団体は、条例で定めることにより、議会の議決すべき事件を追加することができる。
5. 契約の締結については、その種類及び金額にかかわらず、すべての契約について議会の議決を経なければならない。
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正解 5
解説:
1, 2, 3, 4はすべて正しい記述です。
5. 妥当でない。契約の締結が議決事件となるのは、「その種類及び金額について政令で定める基準に従い条例で定める契約」に限られます(96条1項5号)。すべての契約ではありません(文房具を買うたびに議決していたら大変です)。
1. 議会は、当該普通地方公共団体の事務に関する調査を行うことができるが、法定受託事務については国の事務であるため、調査の対象とすることはできない。
2. 議会は、調査のため必要があると認めるときは、選挙人その他の関係人の出頭及び証言並びに記録の提出を請求することができる。
3. 議会の調査権の発動としての証言請求に対し、正当な理由なく証言を拒んだ者は、過料(行政罰)に処せられることはあるが、刑罰を科されることはない。
4. 議会が調査を行う場合、あらかじめ監査委員の意見を聴かなければならない。
5. 議会は、調査の結果、関係人が犯罪を犯したものと認めるときであっても、捜査機関への告発を行う義務までは負わない。
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正解 2
解説:
1. 誤り。法定受託事務も原則として調査対象になります(国の安全に関わるもの等を除く)。
2. 正しい。これが百条委員会の強力な権限です。
3. 誤り。証言拒否等は、6ヶ月以下の禁錮または10万円以下の罰金という「刑罰」の対象です(100条3項)。過料ではありません。
4. 誤り。監査委員の意見聴取義務はありません。
5. 誤り。犯罪があると認めるときは、告発しなければなりません(義務)(100条9項)。
6. まとめと学習のアドバイス
地方議会の分野は、以下のポイントを整理して覚えましょう。
- 議員の地位:任期4年、兼職禁止(請負会社の役員NG)。
- 議決事件:「予算・決算・条例・重要な契約」は必須。条例で追加もOK。
- 調査権:「百条委員会」は刑罰付きの強力な権限。法定受託事務も対象。
特に「兼職禁止の範囲」と「議決事件の範囲(契約は全部ではない)」は、多肢選択式で頻出のひっかけポイントです。正確に記憶しておきましょう。
よくある質問(FAQ)
- Q1. 町村総会は本当に存在するのですか?
- 法律上(地方自治法94条)は制度として存在しますが、現在、日本国内で実際に町村総会を設置している自治体はありません。過去には、東京都の青ヶ島村などで一時的に設置された例があります。試験対策としては「条例で設置可能」という知識を押さえておけば十分です。
- Q2. 議員の報酬と期末手当は条例で決めるのですか?
- はい、その通りです。議員報酬、費用弁償、期末手当の額および支給方法は、すべて「条例」で定めなければなりません(203条4項)。お手盛りを防ぐため、住民の代表である議会が公開の場で決める(条例制定)ことになっています。
- Q3. 百条委員会の「百条」って何ですか?
- 地方自治法第100条に規定されていることから、通称「百条委員会」と呼ばれています。正式名称は「調査特別委員会」などとなることが多いですが、100条に基づく強力な調査権(出頭・証言の強制、罰則、告発義務)を持つ点が、通常の委員会とは異なります。
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