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講義21:【行政不服審査法】行政救済の全体像と審査請求の基本

行政法学習の後半戦、「行政救済法」に入ります。
これまでは「行政がどのような活動をするか(行政作用法)」を学んできましたが、ここからは「行政の活動によって国民が被害を受けたとき、どうやって救済を求めるか」という、国民にとって最も重要なテーマを扱います。

「営業停止処分を受けたけど納得できない!」「税金の額がおかしい!」
そんな時、私たちは裁判所に訴えることもできますが、その前にもっと手軽に、役所に対して「見直してくれ」と文句を言う制度があります。それが「行政不服審査法」です。

この法律は、平成26年に50年ぶりに大改正され、現在の試験でも非常に重視されています。記述式でも頻出の分野ですので、まずは全体像をしっかりと把握しましょう。

💡 この記事で学べること

  • 行政救済法の全体マップ(争訟と補償の違い)
  • 「行政訴訟」と「不服申立て」の関係(自由選択主義)
  • 行政不服審査法の3つの種類(審査請求・再調査・再審査)
  • 「どんな処分でも文句を言えるか?」(一般概括主義と適用除外)

1. 行政救済法の全体像(争訟と補償)

行政活動によって権利を侵害された国民を救うための法律をまとめて「行政救済法」と呼びます。
救済の方法は、大きく2つのルートに分かれます。

(1) 行政争訟と国家補償

分類 目的 手段 代表的な法律
行政争訟
(処分を消す)
違法・不当な処分を是正(取消し)する 行政上の不服申立て
(行政機関に訴える)
行政不服審査法
行政訴訟
(裁判所に訴える)
行政事件訴訟法
国家補償
(金で解決)
生じた損害・損失を金銭で補填する 国家賠償
(違法行為による損害)
国家賠償法
損失補償
(適法行為による損失)
(一般法なし)
土地収用法など
💡 ポイント:争訟と補償の関係

「処分を取り消してもらう(争訟)」のと「お金を払ってもらう(補償)」のは別の話です。
したがって、国家賠償請求をするために、あらかじめ処分の取消判決を得ておく必要はありません(公定力との関係でよく問われます)。いきなりお金の請求をしてもOKです。

(2) 行政訴訟と不服申立ての関係

違法な処分をされたとき、裁判所に行くか、役所に不服を申し立てるか、どちらを選べばよいのでしょうか?

  • 原則:自由選択主義
    いきなり裁判所に訴えてもいいし、まずは不服申立てをしてもいい。国民が自由に選べます。
  • 例外:審査請求前置主義
    大量に処理される処分(税金関係など)については、「まずは不服申立てをして、それでもダメなら裁判所に来てね」というルールになっている場合があります。この場合、いきなり裁判は起こせません。
項目 行政上の不服申立て 行政訴訟(裁判)
審査機関 行政庁(上級庁など) 裁判所(司法権)
対象 違法な処分 + 不当な処分 違法な処分のみ
手続 簡易・迅速(書面審理中心) 慎重・厳格(口頭弁論)
💡 「不当」とは?

法律違反ではないけれど、裁量の使い方が適切でない(センスが悪い、厳しすぎるなど)場合を「不当」といいます。
裁判所は「法律違反(違法)」しかチェックできませんが、行政庁自身による不服審査なら、身内の判断として「不当」な処分も是正できます。

2. 行政不服審査法の概要

(1) 目的(1条)

この法律の目的は、以下の2つです。

  1. 国民の権利利益の救済(メインの目的)
  2. 行政の適正な運営の確保(行政の自己反省機能)

そして、そのための手続きは「簡易・迅速・公正」なものでなければなりません。

(2) 不服申立ての3つの種類

平成26年の改正により、従来の「異議申立て」が廃止され、以下の3種類に再編されました。

種類 審査する人 特徴
審査請求
(原則)
原則として最上級行政庁
(大臣や知事など)
すべての不服申立ての中心。
第三者的な立場でチェックする。
再調査の請求
(例外)
処分庁
(処分をした本人)
「もう一度調べ直してくれ」という簡易な手続き。
法律に定めがある場合のみ可能。
再審査請求
(例外)
第三者機関など 審査請求の決定(裁決)にさらに不服がある場合に行う。
法律に定めがある場合のみ可能。
💡 審査請求中心主義

原則はすべて「審査請求」です。
「再調査の請求」や「再審査請求」は、個別の法律で特に認められた場合にしかできません。
試験対策上は、「原則は審査請求一本」と覚えておきましょう。

3. 審査請求の対象(何について文句を言えるか)

審査請求ができるのは、行政庁の「処分」「不作為」についてです。

(1) 処分

「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」をいいます。
(例)営業停止処分、建築確認、税金の賦課決定など。
※行政手続法や行政事件訴訟法の「処分」とほぼ同じ意味です。

(2) 不作為(ふさくい)

「法令に基づく申請に対して、相当の期間内に何らの処分もしないこと」をいいます。
(例)営業許可の申請をしたのに、いつまでたっても返事が来ない状態。
※単に「違法建築を取り締まってくれ」という申出(申請ではない)に対して動かない場合は、ここでの不作為には当たりません。

4. 適用除外(審査請求できないもの)

行政不服審査法は、原則としてすべての処分を対象とする「一般概括主義(いっぱんがいかつしゅぎ)」をとっています。
しかし、性質上なじまないものなどは、例外的に適用除外とされています(7条)。

行政手続法の適用除外と似ていますが、少し違いがあります。

主な適用除外事項

  • 国会・裁判所の処分:三権分立の観点から除外。
  • 国税・金融商品取引の犯則事件:刑事手続に近いので除外。
  • 学校・講習所での処分:教育的配慮が必要なため除外。
  • 刑務所等での処分:保安上の理由から除外。
  • 外国人の出入国・帰化:外交・安全保障上の理由から除外。
  • 試験・検定の結果:専門的判断であり、不服審査になじまないため除外。
💡 行政手続法との違い(重要)

行政手続法の適用除外とほぼ重なっていますが、以下の点に注意してください。

① 形式的当事者訴訟の対象となる処分
「当事者間の法律関係を確認し、又は形成する処分」で、法律により当事者訴訟で争うべきとされているもの(例:土地収用の補償額決定など)は、不服審査法の対象外です。

② この法律(行審法)に基づく処分
審査請求の手続きの中でされた処分(例:審理員の指名など)に対して、さらに審査請求をすることはできません(キリがないから)。

地方公共団体の適用除外(特例)

国の機関や地方公共団体が、「固有の資格」で処分の相手方になった場合(例:県が国の承認を受ける場合など)も、適用除外となります。
これは、行政機関同士の争いは、国民の権利救済とは関係ないからです。

5. 実戦問題で確認!

問1:行政救済法の分類と関係
行政救済法に関する次の記述のうち、妥当なものはどれか。
1. 行政争訟とは、行政庁の違法または不当な処分を是正する手続きであり、行政不服審査法に基づく不服申立てと、行政事件訴訟法に基づく行政訴訟の2種類がある。
2. 国家賠償法に基づく損害賠償請求は、行政庁の公権力の行使による損害を填補する制度であるが、その前提として、当該処分を取り消す旨の行政訴訟の判決が確定している必要がある。
3. 行政不服審査法に基づく審査請求は、処分の違法性を争う手続きであり、処分の不当性(裁量の妥当性など)については審査の対象とならない。
4. 行政事件訴訟法は、行政庁の処分に対する不服申立てについては、原則として審査請求前置主義を採用しており、直ちに行政訴訟を提起することはできない。
5. 損失補償とは、適法な公権力の行使により財産上の特別の犠牲が生じた場合に補償を行う制度であり、これに関する一般法として損失補償法が制定されている。
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正解 1

解説:

1. 妥当である。行政争訟の定義として正しい記述です。

2. 妥当でない。国家賠償請求において、あらかじめ取消判決を得ている必要はありません(公定力と既判力の関係)。

3. 妥当でない。行政不服審査法は、違法性だけでなく「不当性」も審査対象とします。

4. 妥当でない。原則は「自由選択主義」であり、いきなり訴訟提起が可能です。審査請求前置は例外です。

5. 妥当でない。損失補償に関する一般法は存在しません(土地収用法などの個別法で対応)。

問2:審査請求・再調査・再審査
行政不服審査法に定める不服申立ての種類に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
1. 行政庁の処分に不服がある者は、原則として、処分庁に対して再調査の請求をするか、最上級行政庁に対して審査請求をするか、自由に選択することができる。
2. 再調査の請求は、処分庁に対して行う簡易な手続きであるが、これを行うことができるのは、法律に再調査の請求をすることができる旨の定めがある場合に限られる。
3. 再審査請求は、審査請求の裁決になお不服がある場合に行う手続きであるが、これは行政不服審査法に基づく一般的な権利として認められており、個別の法律の規定は不要である。
4. 審査請求をした者は、その裁決があるまでは、いつでも再調査の請求に変更することができる。
5. 審査請求は、処分庁以外の行政庁(最上級行政庁など)に対して行うものであるため、処分庁に上級行政庁がない場合(大臣の処分など)には、審査請求をすることはできない。
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正解 2

解説:

1. 誤り。原則は審査請求のみです。再調査の請求は法律の定めがある場合に限られます。

2. 正しい。再調査の請求は例外的な制度であり、法律の定めが必要です。

3. 誤り。再審査請求も、法律に定めがある場合に限られます。

4. 誤り。そのような変更規定はありません。

5. 誤り。処分庁に上級行政庁がない場合は、当該処分庁に対して審査請求をします(2条2項)。

問3:行政不服審査法の適用除外
行政不服審査法の適用除外に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
1. 国会の両院若しくは一院又は議会の議決によってされる処分については、行政不服審査法に基づく不服申立てをすることができない。
2. 裁判所若しくは裁判官の裁判により、又は裁判の執行としてされる処分については、行政不服審査法に基づく不服申立てをすることができない。
3. 学校において、教育や研修の目的を達成するために学生や生徒に対してされる処分については、行政不服審査法に基づく不服申立てをすることができない。
4. 地方公共団体の機関がする処分については、地方自治の本旨を尊重する観点から、その根拠が条例にある場合には、行政不服審査法は適用されない。
5. 当事者間の法律関係を確認し、又は形成する処分で、法令の規定によりその法律関係の当事者の一方を被告として訴えを提起すべきものとされている処分については、不服申立てをすることができない。
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正解 4

解説:

1, 2, 3, 5はすべて適用除外事項として正しい記述です(7条1項)。
4. 誤り。行政手続法とは異なり、行政不服審査法には「地方公共団体の条例に基づく処分」を適用除外とする規定はありません。したがって、条例に基づく処分であっても、行政不服審査法に基づく審査請求が可能です。

6. まとめと学習のアドバイス

行政不服審査法の第1回目は、以下のポイントを確実に押さえましょう。

  • 全体像:「違法・不当」なら不服申立て、「違法」だけなら訴訟。原則は自由選択。
  • 種類:「審査請求」が主役。「再調査」「再審査」は法律がある時だけの脇役。
  • 適用除外:行政手続法との違い(地方公共団体の処分も対象になる!)に注意。

特に「地方公共団体の処分」に関する扱いは、行政手続法(適用除外)と行政不服審査法(適用対象)で結論が逆になるため、試験で狙われやすいポイントです。混同しないように整理しておきましょう。

よくある質問(FAQ)

Q1. なぜ「異議申立て」はなくなったのですか?
旧法では、処分庁に対する「異議申立て」と上級庁に対する「審査請求」が並立していましたが、処分をした本人に文句を言っても結果が変わらないことが多く、制度が複雑でした。そこで、第三者的な立場でチェックする「審査請求」に一本化し、公正さを高めるために改正されました(再調査の請求として一部残っていますが、あくまで例外です)。
Q2. 「不当」な処分とは具体的にどんなものですか?
例えば、営業停止処分をする際、法律上は「10日以内の停止」とされていて、行政庁が「10日」の処分をしたとします。これは法律の範囲内なので「適法」ですが、違反の内容が軽微なのに最大の10日にするのは厳しすぎてバランスを欠くかもしれません。このような場合、裁判所は違法と言えなくても、上級行政庁なら「不当だから3日に減らそう」と判断できます。
Q3. 適用除外の「形式的当事者訴訟」とは何ですか?
例えば、土地収用で補償額に不満がある場合、形式上は収用委員会の「裁決(処分)」に不服があるわけですが、実質的な争いは「起業者(土地を買う人)」と「土地所有者」の間の金額争いです。このような場合、法律で「当事者同士で裁判(訴訟)をしなさい」と決めているため、行政庁への不服申立てはできないことになっています。

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