「土地を収用されたけど、補償金額が安すぎる!もっと増額してほしい!」
「公務員を不当にクビ(免職)になった。処分の取消しだけでなく、公務員としての地位を確認したい!」
これまでの講義では、行政庁の処分そのものを攻撃する「抗告訴訟(取消訴訟など)」を中心に学んできました。
しかし、行政をめぐるトラブルの中には、処分を取り消すだけでは解決しないものや、そもそも処分の形をとらない法律関係の争いもあります。
そこで登場するのが「当事者訴訟(とうじしゃそしょう)」です。
これは、行政庁という権力者相手ではなく、対等な当事者同士の法律関係を争う訴訟です。
本試験では、事例を見て「これはどの訴訟類型か?」を判断させる問題や、抗告訴訟の規定が「準用されるか・されないか」を問う問題が頻出です。
今回の講義では、当事者訴訟の2つのタイプ(形式的・実質的)と、民事訴訟の一種である「争点訴訟」について、具体例を交えて解説します。
- 形式的当事者訴訟と実質的当事者訴訟の決定的な違い
- 土地収用の補償額争いで「収用委員会」を訴えない理由
- 争点訴訟とは何か?(民事訴訟との関係)
- 当事者訴訟に「執行停止」や「教示」は準用されるか?
- 本試験レベルの多肢選択式問題による実戦演習
1. 当事者訴訟とは?(全体像)
当事者訴訟とは、「当事者間の法律関係を確認し又は形成する処分又は裁決に関する訴訟」のことをいいます(4条)。
抗告訴訟が「縦の関係(権力vs国民)」であるのに対し、当事者訴訟は「横の関係(対等な当事者同士)」の争いです。
当事者訴訟は、さらに以下の2つに分類されます。
| 種類 | 定義 | 具体例 |
|---|---|---|
| 形式的当事者訴訟 | 実質は処分の争いだが、法律の規定により、当事者の一方を被告として争わせるもの。 | 土地収用の損失補償増額請求訴訟 |
| 実質的当事者訴訟 | 公法上の法律関係そのものを争うもの。 | 日本国籍確認の訴え 公務員の地位確認の訴え |
2. 形式的当事者訴訟(4条前段)
「形式的」と呼ばれる理由は、「実質的には行政処分の内容(金額など)に文句があるのに、形式上は当事者同士の争いにする」からです。
典型例:土地収用の補償額争い
これが最も試験に出る例です。ストーリーで理解しましょう。
【登場人物】
・Aさん:土地を取られる人(土地所有者)
・B社:土地を欲しがっている起業者(鉄道会社など)
・収用委員会:金額を決める行政庁
【事案】
収用委員会が「補償金は1,000万円とする」という裁決(処分)をしました。
Aさんは「安すぎる!3,000万円は必要だ」と不満を持っています。
【訴訟の形】
通常なら、処分をした「収用委員会(行政主体)」を被告にして取消訴訟を起こすはずです。
しかし、金額の争いに関しては、実質的な利害関係者は「金を払うB社」と「金をもらうAさん」です。中立的な立場で裁定した収用委員会を裁判に引きずり出すよりも、AとBで直接やり合わせたほうが話が早いです。
そこで、土地収用法は以下のように定めています。
「補償額に不服がある場合は、訴えをもって、起業者(B社)を被告としなければならない」
このように、処分の効力を争うのに、法律が特別に「被告は行政庁じゃなくて相手方当事者にしなさい」と決めている訴訟を、形式的当事者訴訟といいます。
※あくまで「法律の規定」がある場合に限られます。
3. 実質的当事者訴訟(4条後段)
こちらは、処分を介さずに、「公法上の法律関係(権利義務)」そのものを争う訴訟です。
民事訴訟の行政版と考えると分かりやすいです。
(1) 確認の訴え(地位や権利の確認)
- 公務員の地位確認訴訟:
免職処分が無効であることを前提に、「私は現在も公務員である」という地位の確認を求める訴え。
(※かつては処分の無効確認訴訟が中心でしたが、現在は当事者訴訟が原則とされています。) - 日本国籍確認の訴え:
「私は日本国籍を持っている」という確認を国に対して求める訴え。
(2) 給付の訴え(お金や物の請求)
- 公務員の給与支払請求訴訟:
「未払いの給料を払え」という訴え。 - 損失補償請求訴訟:
適法な公権力行使(土地収用など)によって受けた損失の補償を求める訴え。
※法律に補償規定がない場合でも、憲法29条3項を直接の根拠として請求できるとした判例(河川付近地制限令事件・最大判昭43.11.27)は超重要です。
改正前は、実質的当事者訴訟はあまり活用されていませんでした。
しかし、改正により「公法上の法律関係に関する確認の訴え」が明記され、「抗告訴訟で争えない場合(処分性がない場合)の受け皿」として積極的に活用されるようになりました。
4. 争点訴訟(そうてんそしょう)
これは行政事件訴訟法上の訴訟類型ではなく、「民事訴訟」の一種です。
しかし、行政処分の効力が争点となるため、特則が設けられています(45条)。
(1) 争点訴訟の意味
「私法上の法律関係に関する訴訟において、処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無が争われているもの」をいいます。
【具体例:農地買収】
国がAさんの農地を買収処分し、Bさんに売り渡しました。
Aさんは「買収処分は無効だ!だから土地はまだ俺のものだ」と主張して、Bさんに対して「土地所有権確認訴訟(民事訴訟)」を起こしました。
この裁判のメインテーマは「土地は誰のものか(民事)」ですが、その結論を出すためには「買収処分が有効か無効か(行政)」を判断しなければなりません。
これが争点訴訟です。
(2) 処分の効力(公定力)との関係
行政処分には「公定力(取り消されるまでは有効)」があります。
したがって、争点訴訟で処分の効力を否定できるのは、その処分が「無効(重大かつ明白な瑕疵がある)」な場合に限られます。
単に「違法(取消事由がある)」なだけでは、民事訴訟の中で効力を否定することはできません(まずは取消訴訟を起こせ、となります)。
5. 準用規定の整理(ここが試験の山場!)
当事者訴訟や争点訴訟には、抗告訴訟(取消訴訟)のルールの一部が準用されます。
「何が準用されて、何が準用されないか」は、理屈で覚えるのが一番です。
(1) 当事者訴訟に準用されるもの(〇)
行政が関わる訴訟なので、公益的な配慮が必要です。
- 職権証拠調べ(24条):公益に関わるから、裁判所も頑張る。
- 釈明処分の特則(23条の2):行政庁に資料を出させる。
- 行政庁の訴訟参加(23条):関係する役所を呼ぶ。
- 拘束力(33条1項):行政庁は判決に従え。
(2) 当事者訴訟に準用されないもの(×)
対等な当事者間の争いなので、抗告訴訟特有のルールは不要です。
- 執行停止(25条):
止めるべき「処分」を直接争っているわけではないから。
※代わりに「民事保全法の仮処分」が使えます(41条で仮処分の排除規定が準用されていないため)。 - 出訴期間(14条):
原則として期間制限はありません。
(※形式的当事者訴訟には、個別法で期間が定められていることが多いですが、行訴法上の準用ではありません。) - 不服申立て前置(8条):
関係ありません。 - 教示制度(46条):
原則ありません。
(※ただし、形式的当事者訴訟については、処分の際に「被告は誰か」「期間はいつまでか」を教示する義務があります。)
(3) 争点訴訟の特則(45条)
争点訴訟は民事訴訟ですが、処分の効力が争われるため、以下のルールが適用されます。
- 行政庁への通知:裁判所は、争点訴訟が提起されたら関係行政庁に知らせる。
- 行政庁の訴訟参加:行政庁も言いたいことがあるだろうから参加できる。
- 職権証拠調べ・釈明処分の特則:準用される。
【まとめ表】準用関係
| 規定 | 取消訴訟 | 当事者訴訟 | 争点訴訟 |
|---|---|---|---|
| 職権証拠調べ | 〇 | 〇 | 〇 |
| 訴訟参加 | 〇 | 〇 | 〇 |
| 拘束力 | 〇 | 〇 | × |
| 執行停止 | 〇 | × | × |
| 仮処分の排除 | あり | なし(仮処分OK) | なし |
6. 実戦問題で確認!
1. 当事者訴訟は、行政庁の公権力の行使に関する不服の訴訟であり、抗告訴訟の一種として位置づけられている。
2. 形式的当事者訴訟とは、当事者間の法律関係を確認し又は形成する処分に関する訴訟で、法令の規定によりその法律関係の当事者の一方を被告とするものをいう。
3. 実質的当事者訴訟とは、公法上の法律関係に関する確認の訴えを指し、給付を求める訴え(給付訴訟)は含まれない。
4. 土地収用法の規定に基づき、土地所有者が起業者を被告として損失補償金の増額を求める訴えは、実質的当事者訴訟の代表例である。
5. 日本国籍を有することの確認を求める訴えは、私法上の法律関係に関する訴訟であるため、民事訴訟として提起しなければならない。
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正解 2
解説:
1. 誤り。当事者訴訟は抗告訴訟とは別の類型です。
2. 正しい。形式的当事者訴訟の定義そのものです(4条前段)。
3. 誤り。実質的当事者訴訟には、確認の訴えだけでなく、給付の訴え(損失補償請求など)も含まれます。
4. 誤り。土地収用の補償額争いは「形式的当事者訴訟」の代表例です。
5. 誤り。日本国籍の確認は「公法上の法律関係」に関するものなので、実質的当事者訴訟として提起します。
ア. 執行停止に関する規定
イ. 第三者の訴訟参加に関する規定
ウ. 職権証拠調べに関する規定
エ. 出訴期間に関する規定
オ. 判決の拘束力に関する規定
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正解 3
解説:
ア:準用されない(代わりに民事仮処分が可能)。
イ:準用される(41条→22条)。
ウ:準用される(41条→24条)。
エ:準用されない(原則期間制限なし)。
オ:準用される(41条→33条1項)。
したがって、イ・ウ・オの組合せが正解です。
1. 争点訴訟は、行政事件訴訟法に規定する抗告訴訟の一種であり、処分をした行政庁を被告として提起しなければならない。
2. 争点訴訟においては、処分の効力の有無が争点となるため、裁判所は、当該処分に取消事由(違法)があることを確認すれば、その効力を否定することができる。
3. 争点訴訟を提起する場合、原告は、あらかじめ当該処分の取消訴訟を提起し、勝訴判決を得ていなければならない。
4. 争点訴訟については、行政庁の訴訟参加や職権証拠調べなど、行政事件訴訟法の規定の一部が準用される。
5. 争点訴訟において、処分の無効を主張するためには、当該処分の出訴期間内に訴えを提起しなければならない。
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正解 4
解説:
1. 誤り。争点訴訟は民事訴訟です。被告は民事上の対立当事者です。
2. 誤り。公定力があるため、単なる取消事由(違法)では効力を否定できません。無効事由(重大かつ明白な瑕疵)が必要です。
3. 誤り。そのような要件はありません。
4. 妥当である。45条により準用されます。
5. 誤り。無効主張に期間制限はありません。
7. まとめと学習のアドバイス
当事者訴訟は、抗告訴訟の「補完的な役割」を果たしています。
- 形式的当事者訴訟:「土地収用の金額争い=起業者被告」だけは絶対暗記。
- 実質的当事者訴訟:「公務員の地位確認」「国籍確認」など、公法上の権利そのものを争う。
- 準用規定:「執行停止は×(仮処分〇)」「職権証拠調べは〇」の理屈を押さえる。
特に「仮処分の排除(44条)」は抗告訴訟だけのルールであり、当事者訴訟には適用されない(=仮処分ができる)という点は、記述式や多肢選択式で狙われやすい重要ポイントです。
よくある質問(FAQ)
- Q1. 形式的当事者訴訟の「出訴期間」はどうなっていますか?
- 行政事件訴訟法自体には出訴期間の規定はありません(準用されていないため)。しかし、形式的当事者訴訟を定めている個別の法律(土地収用法など)において、出訴期間(例:裁決書送達から6ヶ月以内)が定められているのが通常です。試験対策としては「行訴法上は準用されていないが、個別法で制限がある」と理解しておきましょう。
- Q2. 実質的当事者訴訟と民事訴訟の境界線はどこですか?
- 非常に微妙な問題ですが、判例・実務では「公法上の原因(処分や公法上の契約)」に基づく権利関係は当事者訴訟、「私法上の原因(売買契約や不法行為)」に基づくものは民事訴訟と振り分けています。例えば、公務員の給与請求は公法上の権利なので当事者訴訟ですが、公務員が交通事故を起こした時の損害賠償(国家賠償)は民事訴訟の手続きで扱われます(実務上)。
- Q3. 争点訴訟で「取消事由」しかない場合はどうすればいいですか?
- 争点訴訟(民事訴訟)の中では、公定力により処分の効力を否定できません。したがって、別途「取消訴訟」を提起して、処分を取り消してもらう必要があります。もし出訴期間が過ぎていれば、もはや争うことはできず、処分は有効なものとして民事訴訟の判決が下されます。
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